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―――始めは、単なる好奇心だった。
それが…あんなことになるとは、思わなかった―――
〜第三章、予告編〜
始まりはいつも二人の手で―――
何してんの?行くわよ?
え、え?
レイソル大陸、ですよ
ただ震えていた少年―――
フフフ…面白そうな相手だ……
そこまでよ、ドリーネっ!
(情けない…っていうんだろうな…今の姿…)
二つの大陸、二つの神、二つの王女の真実―――
じゃあ…あの砂時計を壊せば……
嫌よ。あたしは世界を変えるために来たのよ?
この二人が仮にお前等をそうさせまいと立ち塞がってもか…?
そして、少年の決意と―――
僕も、世界を変えるよ。
―――決別
何で…?
ごめん。
アタシの分…あんたにあげる。だから…だから…アタシの分まで願いを叶えてよ…
さようなら…
かくして世界は、運命の歯車は、求め合う―――
行こうみんな…僕らで世界を変えてやるんだ!
私が勝つ…!
僕は貴方を許さない!
出来るかな…?このボクに勝つことが…?
たった一つの、結末を―――
お願い…わたしたちの世界を…世界を変えて?
そして少年は―――
僕は負けたよ―――でも
―――きっと何かを得るだろう。
勝つよ…もう、迷わないって決めたから―――
貴方をメリーゴーランドへ 第三章〜2009年2月更新予定〜
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「どうしても調べるなら…レイソル大陸の大砂時計を調べると良いよ」
「レイソル大陸の…?」
フラムはアンナを見下ろし、黙って頷いた。
「レイソルはミディ程、軍の警備は厳しくないし常に暗がりだからね…姿を隠しやすいらしい…」
らしい。というのは彼自身もレイソル大陸に足を運んだことがないからだ。
ミディ大陸と違い、レイソル大陸は未開の地。最近は開拓が徐々に始まっているものの、観光目的で訪れようとするものは先ずいない。船は軍の許可を貰えないと出航出来ないのも理由の一つであった。
最後にもう一度だけ礼を告げると、アンナは裏口へと向かい出した。
図書館裏手に出てきた彼女は、そこで待っていたリアス、ドリーネと合流する。
ほほ笑みを浮かべているドリーネと、眼鏡の蔓を黙って上げるリアス。
「さ、帰るわよっ!」
どこか勝気で自慢げな笑み。その表情を見せ付けアンナは二人を通り過ぎる。
それに続くドリーネとリアス。いつの間にかこれが三人の陣形になっていた。
リアスも――弱腰でありつつも――逃げる道はすっかり諦めていた。
完全に巻き込まれたドリーネであったが、彼女は最も二人を暖かく見守っていた欠かせない存在になっていた。
そしてアンナもまた、好奇心と生まれ持った正義感が一つの決断をしていた。
三人の目的は只一つ。
それは図書館で見つけた書が導いてくれた。
それは、『大砂時計』を破壊するということ。
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「あ、お父様にバレたら不味いとか…って!アイツは別にそ、そんな関係じゃないからっ!」
「ああ…いや、それも確かにあるけど、そうじゃなくって……」
その次の瞬間。遠くから18の刻を告げる鐘の音が響いた。図書館の窓に近づき、カーテンを覗くアンナ。
時刻を報せる鐘は、大砂時計のある砂時計広場だけにあるわけではない。
1番地区からぐるりと左回りに8番地区まで、其々の地区に鐘の塔が建っている。
そうして砂時計広場から始まり、鐘の音は街中に響き渡っていく。
ちなみに、鐘は時刻によってその音色を変える。5番と3番の音は18の刻を報せる音色だ。
「軍はあの大砂時計だけは調べさせてくれない…嘗て調べようとした学者たちは例外なく処断されている…」
「しょ、処断って…」
「一般には知られていないことだし、その学者たちの身辺には『罪を犯したから国外追放した』と、軍が告げるだけ…」
窓向こうの景色から、アンナは不意に視線をフラムへと戻す。
彼は俯いたまま、自身の知り合い学者も行方知れずになったことを告げる。
フラムに歩みよると、彼はとても悔しそうに白い歯を剥きだしていた。大切な知り合いだったのだろう。
「お父上の…ハーレー将軍のためにも、君は大砂時計を調べちゃいけない…!」
彼の両手はアンナの撫で肩に触れる。彼女にとって、フラムは兄のように優しく接してくれる人物だった。今も、その温かな手の温もりに彼女は癒され、そして冷たく閉ざした扉の氷を溶かすようであった。
アンナは静かに顔を上げた。
「…ごめん、フラム…きっとあたしはそれを調べるよ…」
素直で、真っ直ぐな彼女の瞳と微笑。直後、フラムの手から力が抜けていった。
彼女の性格を理解していたフラムだからこその引き際の良さだったのかもしれない。
フラムもふっきれたように笑みを浮かべ、そうかとだけ答えた。
すると彼はアンナの肩からそっと手を放した。
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すると直後、フラムは突然身体を硬直させ、顔を顰めた。それが意味するものは聞かずともリアスには判った。
リアスは解読した紙面と書を懐へしまい、フラムへ深く一礼した。こんなに頭を下げたことは滅多にない。授業で担任にしかられたときにしたくらいだった。
顔を上げたリアスはズレた眼鏡を直しながら踵を返す。アンナとドリーネを通り過ぎて先ほど来た裏口へと向かった。
慌てて付いていくアンナとドリーネ。と、アンナは去る前にフラムへ駆け寄った。
「それじゃあ、フラム。ありがとね」
「いや、お嬢様の頼みなら……でも…」
アンナは此処でフラムが浮かない様子でいることにようやく気付いた。
重く口を閉ざす彼に思わずアンナは顔を顰める。が、待っているほど彼女も暇でも心が広いわけでもない。
「何?何かあったの?」
「いや……」
すると彼は静かにその口で言葉を紡いだ。
「小説のことは忘れた方が良い」
意外な彼の台詞に瞳を大きくさせるアンナ。「なんで!?」と、思わずツインテールの髪が揺れる。
彼は至極真面目で真っ直ぐな赤い瞳を彼女に向けた。逸らす事はしなかった。
「確かにあの書の内容は単なる幻想だと僕は確信出来る。そんな内容の文献は見つかっていないし…この小説内の世界では大陸が一つになっている…」
フラムの告げる疑問点はアンナでも理解出来た。
書の中では大陸は一つとして扱われていた。
しかしこのマアトでは大陸が二つある。ミディ大陸とレイソル大陸だ。
改定時代と呼ばれる時代に入ってからは、そのような大陸が分断したという記述や天変地異が起きたという文献も残っていない。
その点から、フラムはこの書が幻想世界であると確定させていた。
「だけど、僕が言いたいのはそこじゃない…」
「どういう意味?」
「大砂時計には近づかない方が良い」
これまた意外な台詞だった。当然顔を顰めるアンナ。その顰め面には怒りさえ込められていく。
大砂時計広場は街人たちの憩いの場。そこに近づくなというのはどういうことか――。
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違う箇所があれど、以前読んだあの『ナイトプリンセス初版本』とほぼ同様の文面。
リアスたちの顔が自然と綻ぶ。ようやく見つけた。間違いない手がかり。三人は顔を見合わせた。
「間違いないよ」
咄嗟に漏れるリアスの喜び。と、それに横槍を入れるように声を漏らしたのはフラムだった。
彼は静かに上体だけを起こし、三人へ目配せる。
「それにしても…面白い物語だよね」
それから彼は起き上がり、大きく背伸びをした。
「白猿ミディと黒鷹レイソルは確かにマアト神話に出てくるマアト神の配下だと言われてるけど…まさかその二神が太陽と月の化身だなんてね。よく出来てるフィクションだよ」
書物の内容を全く信用していないという顔で微笑む。だが、本来の一般人なら当然の反応がこれなのだろう。良く出来た面白いファンタジー小説。ましてや魔法や魔物なんて信じられるはずがない。
更に、考古学者である彼故にその言葉には説得力もあった。僕らはただ、古の良く出来た夢物語に振り回されているだけなのかもしれない。
しかし、この書に書かれていた内容全てを偽りと断定するのはどうかとリアスは思っていた。
この小説を真実と断定する証拠もなければ、幻想と決め付ける証拠もないのだから。
「あの…フ、フラム…さん?聞いても、良いですか?」
何とか復活したフラムは椅子に腰掛け、深いため息を漏らしている。そんな彼へリアスは文章を片手に尋ねた。
「この…書は一体何なんですか?」
「え?ファンタジー小説だろ?魔法や魔物の類が登場するところからしてそれしかないし…それに、実際に昔にあった登場人物や国名を使用する小説もよくあるしね」
やはり、フラムはこの書の文章を信用していない。少しだけ、悲しさが込み上げた。
リアスも、それがどうしてなのか何とも説明がつかない。ただ、学者に否定された小説に同情しているだけなのかもしれない。
アンナとドリーネの不思議そうな顔を他所に、リアスは最後に一つ質問する。
「あの大砂時計が出来た経緯については…知っていますか…?」
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しかし、その考えに反対するものもいた。この本の著者である私もその一人だ。
今ある世界は、本当の世界ではないのだ。神が与えた罰という名の気まぐれな世界なのだ。
私を含めた学者の何人かは反対の意向を示し、国に訴えた。だが、結果は判りきっていたものだった。友人は処罰された。私は辛うじて逃げることが出来た。
それから間もなくして国はこれまでの政事を改定し始めた。国名をミディの名から『カディル』と名を変えた。国王の下で動く騎士軍『カデル軍』を作った。時間の流れを統一させるべく、巨大な砂時計を祭壇の上に作った。地下にあった祭壇は砂時計の下敷きになった。
だが、気まぐれな神はその様子に怒ることもない。
さらにカディル王国は『就寝の刻』という人々に絶対就寝の原則を与えることで、人の時の流れを完全に統一させた。
かつて、ミディ国と呼ばれていた時代の書物、文章、歴史関連は完全に抹消された。
それを後世の人が読み、祭壇を破壊されては困ると思ったからだろう。今にして思えば祭壇の上に砂時計を作った理由もそれと同じと思える。
後に、人々はこの歴史を忘れてしまうだろう。そして偽りの世界を本当の世界としてしまうだろう。だがそれは間違いだ。
この文章だけでは、証拠何もない。単なる夢物語と思うものもいるだろう。
しかし、ここに綴られたものは物語ではない、真実だ。それを信じて欲しい。
これから先、もしも後の世の者がこの書物を見つけたのなら、証拠を探し出し、世界を取り返してほしい。
偽りではない、真実の世界を――出来るならば、もう一度取り戻して欲しい。
著者 ロイヤー・ホライズン
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この終幕の後、大陸は異変に襲われた。未曾有の大災害による被害。大地は枯れ、水は濁り、凍える大地に変わった。
その状況を調べた者たちは、それが白猿神と黒鷹神の怒りなのだと告げた。怒りを静めるには生贄が必要だとされた。だが、単なる生贄では済まされないとも告げた。
預言者と呼ばれていた男は一つの結論を導き出した。
『白猿神の巫女であった王女と、黒鷹神から力を貸し受けた女――この二人の遺灰を其々神が眠る土地に祭れ。さすれば神の怒りは静まるだろう』
預言を信じた代理たちは直ぐさま行動に移った。
白いものが好きな白猿神には、光の巫女と嘗ては呼ばれていた王女――エリィンツェルの遺灰を捧げ、祭った。
黒いものが好きな黒鷹神には、魔の力を唯一受け取った人間の女――オルディアの遺灰を捧げ、祭った。
すると、預言の通り世界の天変地異は見る見る治まり、水は澄み、大地は肥えた。
人々は平穏な大地を取り戻し始めた。
だが、全てが上手くいったわけではなかった。
何日経っても、国にはあるものが来なくなった。夜だった。ミディ国に夜が訪れなくなったのだ。
同じように国外に立てていたオルディアの眠る大地では昼が訪れなくなっていた。
学者たちは挙って調べ、そして一つの推測を立てた。
それは、姉妹の遺灰を祭ったことが其々に祝福を与えた神をその大地に圧し留まらせ、封印させるようなものだったのではないか。というものだった。
白猿は昼を司り、黒鷹は夜を司ると言われている。祭壇に封印されてしまった神は身動きが取れず、その周囲の土地にしか昼と夜が訪れなくなってしまったのではないか。
神託は白猿でも黒鷹でもない、赤猫マアトによる気まぐれと言う名の怒りの教えだったのでは、思われた。
ならば即刻するべきことは祭壇の破壊ではないかと誰かが告げた。だが、その祭壇を破壊したことで何が起こるかわからないことを、代理たちや人々は恐れた。
人々は昼だけの土地、夜だけの土地に生きることを決めた。これは災害ではない。ならば住めない筈はない。と。順応する考えを持ち始めた。
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女は罪に問われる前に兵を殺めながら、人とは思えない力を使い、国外へと逃げていった。
そこは、人々が忘れた土地だった。
国王の娘であり王位継承者であった王女は女を捕らえよと命じた。王女もまた、黒く染まろうとしていた。
国中の者たちが異様なほど、荒れ始めたのもその頃からだったという。まるで、女が呪いをかけたかのように、国さえも黒くなっていった。
そしてそれに呼応するかのように、闇が動き始めた。
それは、魔の者だった。後に、女は魔の者たちの集団を引き連れて姿を見せた。
女は魔の者と繋がりがあったのだ。そして、魔の者たちに国の大地を譲る代わりに自分に魔の力を貸してくれと契約をしていたのだ。
女の復讐と、義理とはいえど姉妹の対決、果てには魔物と人との戦争へと争いは広がっていった。
その戦いは10年の月日が経過したとき、ようやく人の勝利で幕を閉じた。
女は実の妹に胸を貫かれ、灰となった。そのとき、王女は始めて自分が姉を殺めたという後悔に襲われた。違う道があれば、仲睦まじい姉妹になれたかもしれないのに。と。
既に王女は大切なものを失いすぎていた。魔の者に勝利したとはいえ、人々は争いに疲弊し、生きる力さえない顔をしていた。空には何処までも続く暗雲。まるで今の世界を指しているかのようだったという。
王女は、自分と家族の起こした過ちを償うべく、自らの命を絶った。
彼女の持つ剣には白猿神の聖なる力が宿っていたという。その剣で心臓を貫いた彼女は、姉と同じように灰になった。
それは未だ、魔物と魔術という力が存在していた時代の話であり、結末だった。
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『改定時代の経緯――ここに語られた歴史はおそらく後世に語られることのない、歴史の闇へと消される事実だろう。もしもこの書物を見つけた者がいたならば、これから綴られる内容が歴史の真実であることを知って理解してほしい。そして、出来ることならばこの真実を全ての民に報せてほしい。今の世界は間違っているのだ。と…』
リアスは思わず息を呑んだ。綴られている冒頭の文章は、彼らが先日見たプリンセスナイトの後書きと良く似ている内容であった。
もしかして。と、リアスの鼓動が高鳴る。アンナとドリーネもリアスの左右脇から紙面を覗き込んでいるということも忘れて、リアスは夢中になってその内容に目を通し始めた。
その内容を大まかに説明すると、以下のようになる。
かつて、大地にはアカ猫の神マアトが存在していた。マアトは気まぐれであり、常に自由気ままに放浪する神であった。
そんなマアトがある時、気まぐれに白猿と黒鷹を作った。彼らは白猿の神ミディ、黒鷹の神レイソルと呼ばれるようになった。
二神は互いに合い入れぬ存在であった。一方は白いものを愛し、一方は黒いものを愛するようになった。
その結果――ミディは人を作り、レイソルは魔物を作った。更には大陸を二つに裂き、二つの合い入れぬ存在はより一層と対立していった。
その語りが伝説や神話として語られるようになった頃、文明の変化と共に大陸と人の心は変化を見せた。
人々は神を信じなくなり、魔に魅入られるようになっていった。人は黒も愛するようになった。
そんな矢先、黒に魅入られてしまった女が大きな過ちを犯すことになる。
白猿神の名がついた国で、とある女が王を殺した。女は王の隠し子であり、王が人知れず捨てた子だった。国王の黒が、女をも黒く染めてしまったのだ。
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