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「――せ、おい、莉世。聞いてる?」
修平の声にハッとして、気づくと修平が私の顔を覗きこんでいて間近にあった。
「うわぁぁ!な、なに?なんなの?」
私は思わず修平を押しのける。
心臓がバクバクして、痛い。
「悪い。呼びかけても反応なかったから、どうしたのかと思って……」
「あ、そ、そうなんだ。こっちこそごめん。ボウっとして」
「―――そんなに京斗が居ないのって、ダメなの?」
修平がいつもより少し寂しそうな表情を浮かべて言った言葉に、私はズキンと心が痛かった。
「………」
「つーか、ダメだよな。俺らずっと3人で居たしな。急に2人とか言われても慣れないよな」
修平はそう言うと、歩き始めた。
私を置いていく修平の背中を見て、私は修平の背中を見たことがあっただろうか?
私や京斗が修平を置いていく事があっても、修平は私を置いていったりはしない。
いつも横にいるんだ。
「あ、そうだ。莉世、欲しいものある?」
修平は立ち止まりクルッと私の方を振り向くと、いつもと変わらない笑みを浮かべて言った。
「ぬいぐるみはいらない」
そう言うと私はパタパタパタと修平の元へと駆けて行った。
「庵野さん」
お昼休み終了のチャイムが鳴り、秘密基地からの帰りの廊下で後ろから呼びとめられたので私と修平は同時に後ろを振り向くと、同じクラスの吉崎くんだった。修平は、先に行ってるな。と言って一足先に教室へと向かう。
「何?何か用事?」
「本当にいつも一緒にいるよね。伊崎と庵野さんって。付き合ってるの?」
修平の後ろ姿を見ながらニコニコしながら言う。
「わざわざそんな事言うために呼びとめたとか?」
「違う違う。庵野さん、体育委員だろ?今日放課後委員会あるってさ」
「そうなんだ。ありがとう。あれ?でも、吉崎くん体育委員だっけ?」
「あれ?知らなかった?俺、転校して行った水嶋の代わりになったんだよ。よろしく」
「へぇ、そうなんだ」
会話が一区切りついた時、予鈴のチャイムが鳴ったので、じゃあ、先行くね。と言った後彼の横を通り過ぎようとした時、急に腕を掴まれた。
ビックリして吉崎くんを見ると彼は言った。
「これが縁でさ、俺と庵野さんのロマンスってありかな?」
ニコッと微笑んだ吉崎くんの笑顔に、腰が引けた。
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「莉世。あんた、修平と付き合ってるの?」
夜10時過ぎに帰ってきた姉が、ダイニングでグラスいっぱいに注いだミネラルウォーターを一気に飲み干した後、さらっと発言する。リビングのソファで雑誌を見ていた私は反射的に姉の方を向いた。
「あれ?違うの?」
何も言わない私に姉は少々がっかり感を出す。
「だ、誰に聞いたの?」
「さっき京斗と偶然会って、そんな事言ってたから。――ねぇ、実際のところどうなのよ?」
姉はニヤニヤと怪しげな表情を見せつつ、私の隣に腰をおろす。
「―――まぁ、そんなとこ。つーか、絶対親には言わないでよ!」
私は苛立ちながら雑誌を姉の膝の上に置いて立ち上がると、丁度母親がお風呂から上がってきた。
「何?どうしたの?大きな声出して」
「しらな〜い。反抗期なんじゃない?」
母親と姉の言葉を無視して、私は部屋へと向かった。
普段よりもきつく部屋のドアを閉めると、私は京斗への怒りが込みあがってきた。
別に隠しておく事はないけれど、なんだかちょっと嫌だ。
ベットの上に倒れこむように横になり目を閉じると、今日の事が鮮明に蘇ってくる。
いつもと変わらないのに、妙に緊張した修平との映画。
会いたくなかったのに偶然京斗たちと会って一緒にお茶した事。
京斗の事を私たちの前で堂々と“好きだ”と言った京斗の彼女の事。
そして――――
『生意気で愛想がなくてわがままなトコ』が好きだと言った修平。
修平の言葉を思い出すと、胸が痛かった。
ずっと修平は、そうやって私の事を想っていてくれたのだろうか?
そう思うと、軽はずみに言ってしまった自分の言葉に申し訳なさが生まれてくる。
修平と離れるのが嫌なら、ちゃんとしなきゃ。
いつまでも修平の優しさに甘えてたらいけない。
ごめんね。修平。
それから、京斗のバァーカ!
次の日の朝は、私と修平の二人だけで京斗は彼女と学校に行くとかでいなかった。
今までそんな事なかったのにきっと、これからもこういう光景が当たり前になっていくのだろう。
慣れていかなきゃ……。
私は、ちゃんと修平を見なきゃ……
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「それにしても、よく逃げられたよね」
先程の一件を思い出したのか、おかしそうに莉世が言う。
歩き慣れたマンションまでの帰り道、夕日に透けた莉世の髪は明るく顔はほんのり赤く染まっていた。
「修平ずっとニコニコしてたけど、時々ほっぺ引きつってたし」
「莉世こそ、こーんな顔してたくせに」
そう言って思いきり眉間に皺をつくって顔を顰めると、鞄でばしんと背中を叩かれた。
すぐに膨れっつらになって、すたすたと先を行く莉世。
その後ろ姿に声を掛けた。
「莉世は欲しいものある?」
「ぬいぐるみならいらない」
拗ねているのか本音なのか、ともかく素っ気ない返事に苦笑がもれる。
別にUFOキャッチャー限定の話でもないんだけど。
「そう言うけど一度やらせてみてよ、マジ惚れ直すって」
「そもそも惚れてないから」
「……身も蓋もないこと言うなよ」
普段の軽口のテンションのまま笑ってみせたけど、内心はすごく複雑だ。
――何千円もつぎこんだあいつは元気でやっているのだろうか…まさかもう捨てられていたりして。
ふと過った心配も、残念ながら確かめる術はない。
「今年は、どうしようかな」
「え、なんか言った?」
「あ、ううん何も。そういえば――」
つい歩みを遅らせてしまったのは、マンションが見えてきたからで。
19時前に帰宅なんて優等生過ぎると今更になって気がついたのだった。 |
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京斗のこの話し振りでは、上げたままでは終わらせてくれなそうだ。
案の定、「一人で何千円もつぎこんで超真剣に練習してんの」と続け笑いを取ると、莉世までが「何やってんの」と呆れたようにこちらを見つめた。
つい俺は”誰のためだと思ってんだよ”と本当のネタばらしをしそうになるのを抑えた。
「北山さんも莉世も欲しいもの取ってもらったら嬉しいだろ」
「うん嬉しいしすごいなって思う」
「でしょ、だから俺は女の子の喜ぶ顔が見たくてこう一生懸命さ…」
「動機が不純すぎ」
ばっさりと切り捨てた莉世が鞄を手に取り立ち上がった。
外からはゆっくりと傾きはじめた日が、オレンジ色の光を放っていた。
不安定なヒールでどうにも危なっかしい北山さんに手を貸す京斗を呼び止めて、声を潜める。
「いい加減もういいだろ」
「何が?」
こういう時、俺よりも若干高い京斗の背が癪だ。
「十分付き合っただろって話だよ」
「だからなんだよ?」
白々しく分からない振りをして、京斗が先に行った二人と合流する。
そして唐突に「修平から話があるそうです」と片手を上げて、どうぞとこっちにそれを向けた。
ああ分かったよ、言えばいいんだろ言えば。
半ば投げやりな気持ちも、振り返った二人のきょとんとした表情にまるみを帯びる。
ゲーセンも楽しそうでいいんだけどさ、そんな前置きのあとに。
「そろそろ二人にしてもらってもいいかな」
後方を指差して、ごめんと片目をつむる。
そうだよね邪魔しちゃってごめんねと満面の笑みで告げた北山さんから謝罪の気持ちはちっとも伝わらないけど、そもそも誰かが謝る話じゃない。
俺がもっと莉世と一緒にいたいだけの話だ。 |
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ほんの少しだけのつもりだったのに、4人のお茶会はだいぶ長引いた。
それは多分”ムードメーカー兼気使いを忘れない優しい京ちゃん”のおかげで。
全員へ均等に話を振りながらも、持ち前の明るさで話を盛り上げ繋げてくれていた。
「――で、このあとどうする?」
そんな京斗がカフェの壁にかかった時計を見上げた。
訊ねられたこちら側、つまり莉世と北山さん二人分の視線が俺の方に向く。
それを受けて京斗も「修平はなんか予定あんの?」と首を傾げた。
「いや、予定は特にないけど」
「じゃあゲーセン行かね?早智がプリクラ撮りたいって言っててさ」
「あー、京ちゃん覚えててくれたんだ!」
「当然」
嬉しそうにはしゃぐ北山さんと得意げに親指を立てる京斗、それから。
行きたいのかそれとも行きたいのか、いまいち判別のつかない莉世。
その後もやりたいゲームの話で二人が盛り上がる中、不意に京斗が何か思い出したようにこちらを向いた。
「修平も莉世になんか取ってやればいいじゃん」
「え、なになに」
「こいつUFOキャッチャーだけは、すっげ上手いから」
”だけ”の部分が妙に強調されていたのは気のせいだろうか。
どちらにしろ「すごーい」と北山さんに褒められ、悪い気はしなかったけど。
「友達何人かと行った時もさ…」 |
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気の置けない幼馴染二人を前に、これほど居た堪れない気持ちになったのは久しぶりだった。
バカップル(これくらい言わせて欲しい)に当てられるだけならまだしも、そんな彼らの姿に戸惑い浮かない表情をしている莉世を見ているのが嫌だった。
自分勝手に違いないけど、莉世をそんな風にさせた京斗が腹立たしかったし……正直少し妬けた。
表面上こそ笑顔で取り繕っていたものの、手に余る憂鬱な気持ちを多分に抱えていて。
たいしたフォローも面白い話も出来ないまま、ほとんど口をつけない状態で放置していたカップを手に取る。
案の定、中のコーヒーはぬるい。
だから、気でも遣わせてしまったのだろうか。
思いがけず北山さんが「伊崎君は?」と小首を傾げ、黒目がちの大きな瞳をこちらに向けてきた。
突然の振りに俺がなにがと問い返す前に北山さんはふわりと微笑み、続けた。
「伊崎君は、庵野さんのどこが好き?」
まるで不意打ちだった。
もう少し早いタイミングで訊ねられていたら、完全に咽ていたし最悪コーヒーをふいたかもしれない。
かと言って、男の俺が顔を赤くして俯くわけにもいかない。
「――え…っと、そうだな」
悪気のかけらもない(と信じたい)北山さんの真っ直ぐな視線が痛い。
「強いて言うなら」
にやりと人の悪そうな笑みを浮かべた京斗が助けてくれる見込みはない。
「うん」
しかも、俺は莉世の反応を伺う勇気を持ち合わせていなかったから。
「生意気で愛想がなくてわがままなトコ」
言った途端に予定調和のように「なによそれ」と突っ込んでくれた莉世に対して、思わずありがとうと言いそうになってしまう。
ずっと小さな頃からそうだった。
俺が本当に困っている時、莉世こそいつだって優しかった。 |
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「そうだよね。不思議だもんね。学園のアイドルの北山さんが、寄りに寄って京斗を選ぶなんて」
自分で言った事がとても苦く感じた。
どうして、こんなとげとげしい言い方しか出来ないんだろう。
自分でも吐き気しそう。
「京ちゃんは素敵な人だよ。一見、ムードメーカーに見えるけど本当はよく気を使うし、優しい人」
恥ずかしいと言っていた割には、はっきりとした口調で言った言葉に私は、余計に自分が醜い女に思えて嫌だった。
「ありがとう」
京斗は、私が見たこともない優しい笑みを浮かべて彼女に微笑んだ。
私だってそれぐらいわかってるよ。
京斗の良いところも、修平の良いところも、なんでも知ってるんだから。
だけど――京斗は、私たちには見せなかった態度やしぐさを彼女にだけは見せるのだろうか?
そう思うと、やっぱりどこか寂しかった。
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四人が入ったのは、近くにあったカフェだった。
ファーストフードのようにカウンターで注文して、席につく。と言ったシステムのカフェで、先に席を確保した私たちはカウンターの前で並んだ。
私たちの前には、京斗たちが並んでいた二人で仲良くメニューを見ながら、お互いニコニコと笑顔を見せていて、はたから見たらラブラブなカップルに見える。それに比べて私と修平は、笑顔どころか会話すらそんなにないよ……。
まだまともに修平見れないし……
「莉世、決まった?」
ふいに修平がメニューを見ながら声をかけてきた。
「うん。カフェオレ」
まだキラキラしている修平を見ずに、私はそっけなく答える。
「カフェオレかぁー……」
そう言った後、まだ悩んでいた。
私と修平に足りないものってなんだろう?
京斗たちができて、私と修平に足りないものってなんだ??
答えが出ないまま、私たちは無事オーダーを済ませて席に戻った。
「はい、京ちゃん。お砂糖二つで良いんだよね?」
誰も呼ばないあだ名で呼ばれている京斗に違和感を覚えた。
どうみても、京ちゃんってキャラじゃないだろ。と思いつつ二人の様子を観察。
「ああ、ありがとう―――って、なんだよ。莉世」
じっと見ていた私に気がついた京斗が、言った。
「いや、別に」
「なんかおまえ今日、おかしくねぇ?いつもより愛想悪いよ?」
「普通だよ」
「き、北山さんって、京斗のどこが好きになったの?」
雰囲気が悪くなった私と京斗の空気を消そうと、修平は話題を北山 早智に振った。
「え?あ……改めて聞かれちゃうと、照れる」
隣にいる京斗の顔をチラッと見た後、頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯く。
「俺もそれ、聞きたいなぁ〜」
と意地悪そうな笑みを浮かべて京斗は、隣の彼女の顔を覗きこむ。
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自分でもわかるぐらい修平が近くに来るとドキドキとおかしくなるのが分かった。それを悟られまいと修平と視線が合うと何故か不自然にそらしてしまう。
修平に悪気は何もないのに………。
それにしても、修平の周りにちらついているこのキラキラはなんだろう?
「このあと、どうしようか?」
映画が終り、修平の問いかけに私は我に戻る。
あまりにもいつもと違うので、色々考え込んでしまっていた。
どうしようか…、と言おうと思った矢先、聞きなれている声をキャッチした私はピクっと声がした方に反応した。それは、修平も同じだったようで二人して同じ方向を向いたら京斗と北山 早智がいた。
いつもの調子で軽くヒラヒラっと手を振りながら私たちに近づいてくる。
嫌だ―――
心がズキンと音を立てた。
私の知らない女の子と仲良く二人で遊んでる姿を見ると、心の中が曇っていく。
別に京斗は、私の所有物でもなんでもないのに。
「イタッ」
パチンと俯いている私のおデコを京斗は人差し指で弾く。
「な〜に、暗い顔してんだよ。せっかくのデートなんだろ?」
京斗はニヤニヤと顔をニヤつかせながら言う。
「うっさい。京斗に会ったから、嫌だなって思っただけ」
「なんだよそれ」
「京斗に会うと、せっかくのデートが台無しになるからよ」
ベッと舌を出した。
「どういう意味だよ」
私と京斗が険悪なムードになった瞬間、修平が、ハイハイ。そこまで。と言って私たちの間に入る。
「京斗、北山さんとデートだろ。俺たち邪魔したら悪いし、そろそろ行くよ。良いよな、莉世」
私は、修平の横でコクンと小さく首を縦に振り答えた。
「じゃあ、邪魔したな。京斗。北山さんもまたね」
修平は私の背中を押すように足を進める。
「修平」
去っていく私たちを引き止めるように、京斗が修平の名前を呼んだ。
「なに?」
「一緒にお茶しない?」
修平は答える前に私に答えを委ねるつもりらしく、じっと私の方を見る。
それに対して私は、修平にしか聞こえないような声で、別にいいよ。と答えた。
「じゃあ――少しだけなら」
そう言って、私たちはまた京斗たちの前に戻った。
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| タイトル |
024. |
今日の気分 | end(通し番号訂正) |
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映画が子供向けの分かりやすい内容でよかった、と思う。
というのも。
映画の序盤に何も気にせずポップコーンを食べようとした時、同様に手を伸ばした莉世の手首に、指が触れたことから始まり。
意識し出してしまった方が負けなのか、隣とは言えそれほど近くもないはずなのに、上映中ずっと莉世の存在感ばかりが強くて、肝心の映画に集中出来なかったという、非常に情けない理由だった。
エンドロールが流れ、にわかにざわつき始めた館内でゆっくりと息を吐く。
すぐ横では、スクリーンをじっと見つめる莉世がいる。
手作り感溢れるスタッフロールが終わって、余韻に浸るように静かに照明がともる。
「よかったね」
笑いかけると一点の曇りのない笑顔で頷かれ、本当にこれだけの為にここに来たんじゃないかと思ってしまう。
映画の5歳の少年が少女に対して『僕が守ってあげるからね』と言った気持ちが今心底分かったような気がして言葉を失う。
ついでに莉世も俺のこと好きにならないかなーとバカなことを考えながら外に出ると、他の映画と終了時間が重なったのかロビーは大勢の人で混雑していた。
「このあとどうしよっか」
普通のポップコーン買ってきちゃったし何か甘いものでも、と考えていたら。
――今だけは空耳であって欲しい、ひどく聞き慣れた声が耳に届いた。
嫌な予感をひしひしと感じながら振り返るとそれは見事に的中し、片手を上げる京斗と若干戸惑った様子の北山さんがいた。
こういう時はほっといてくれ。
そんな俺の心の願いを奴が察するはずもなく、偶然と声を掛けられれば応じるより他ない。
得意の愛想笑いで北山さんにも軽く頭を下げると、大人なのか天然なのか屈託のない笑顔で返してくれる。…やばい、可愛い。
「なんだ、お前らもここだったんだ」
「ああ。今、時間だけでもずらせばよかったって後悔したトコ」
普段の軽口も状況が状況なだけにやりずらい。
出来るのなら、それじゃと莉世の手を引いてすぐにでもこの場を去りたいけど、そう簡単にもいかなくて。
苦い笑いを浮かべながら、横にいる莉世を見た。 |
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