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――そうしんもとふめい
「はじめまして! って、普段学校で会ってるのにメールだとおかしい感じだよね!」
パソコンのメールアドレスに、メールが来ていた。
普段は迷惑メールばかりだったので、めずらしいなという気持ちとともに俺は続けて目を通した。
「今日の体育疲れたよねー。先生ってば何周走らせるんだよ、ってカンジ。明日筋肉痛になりそう。でも、走ってる姿かっこよかったなあ」
次の日も来ていた。
送信主の名前はない。もちろん、アドレスに見覚えもないわけで。
「聞いた? 昨日の話。ホントかなあ? 先生って結構しっかりしてたんだね。奥さんをよろこばせることって難しいもんね」
担任の話?
明日聞いてみようか、クラス中に声をかけて。
「もー、サイアク! どうしてあんなこと聞くのよ! 恥ずかしいじゃん、私たち付き合ってるみたいじゃん!!」
……クラス内に犯人がいるようだ。
この場合、犯人というべきかどうかはさだかではないが。
「毎日キミのこと、見てるんだよ? 会えない日はすごくさみしい」
「ねえ、どうして今日休んだの? なんで私に連絡くれなかったの? 心配したんだよ」
「さっきお風呂上がったんだよね。そのパジャマ似合ってるね」
「ねえ、見てるよ、見てるよ、毎日、見てるよ。どうしてキミは見てくれないの? ねえ、見てるよ、見てるよ、見てるよ。私はキミだけ見ているんだよ。ねえ、顔を出してよ、今外にいるから。寒いよ、家に入れてよ、ねえ、ねえ、ねえ!!!!!」
カーテンを開けると――――
――あてさきふめい |
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――なつのむし
風が冷たくなってきた。もうじき秋なのだなあ、と思う。
それなのに家の中は
風鈴とかビニールプールだとか、キャラクターのプリントがほどこされた半そでのTシャツ。
力なく羽が動く扇風機、仕事を終え灰になった蚊取り線香、玄関にちらばったビーチサンダル。
夏のものが散乱している。
わたしはそれらと、動かなくなってしまった家族を見ながら、アイスキャンディをなめる。
溶けだしたバニラは、あごをつたって床に落ちる。
開け放たれたまま、――いや、雨戸もないというべきが良いだろうか。
このあばら家をだれが見つけてくれるだろう。
ぐったりとした身体。
遠くで聞こえるサイレンは、いつまでたっても近づいてくる気配はなく。
このまま見つからずに、自分までああなってしまうのだろうか。
でも、ああしたのは、わたしなんだよね。
アイスの棒をかむと、血と木の味がした。
――あきのむし |
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――むかしからつたわる
それは、祖父の十三回忌のことだった。
親戚が帰り、姉は居間の片付け、母は夕食の準備、父はたばこを買いに出かけたばかりの夕方。
腕がいいと評判でね、と祖母は誇らしそうに話した。祖父は昔、写真館を営んでいたようだ。
もともと、曾祖父から受け継いだもので、祖父は長男だったのでなるべくしてなってしまったのだそうだ。
しかし、祖父は写真館をわずか数年で閉めてしまう。
曾祖父の代からの客や、口コミで祖父の腕前を知った客も多くついてきた頃だったのに、と祖母は言っていた。
「どうしてやめちゃったの?」
昨日、祖母と母と三人でつくったおはぎを食べながら訊く。おはぎは、甘くておいしい。
「あの人は少し気が小さかったからねえ」
濃い煎茶を飲みながら、目を細める祖母は苦笑いする。
「ほら、写真は魂を抜く、とか知らないかい?」
あんこがべったりついた指をなめながら、わたしは聞いたことのある話に少しだけ首を縦に振った。
「あれを信じてたんだよ」
「ふうん」
ご飯は乾燥すると指先がかさつく。急須から煎茶をそそぎ、祖母に続いて飲んだ。
「運が悪かっただけだとは思うんだけどねえ」
祖母は、うわさ通りのことを語った。祖父が写真に収めた人物は――。
「それでも、わたしはあの人の写真が大好きだったよ」
そう言って笑う祖母は、少女のようだった。縁側は、夏風の残りが吹き抜ける。
祖父の遺影はない。
葬儀屋はどうしても、と言ってきたようだが祖母が丁重に断ったそうだ。
――うそのようなでんせつ |
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――くらやみが
ある日を境に、夜が訪れなくなった。
いや、白夜ではない。
ある日を境に。
ぽつんと。
忽然と、夜はおりてこなくなった。
太陽と、太陽と、太陽と、おちない夕日。
鮮やかに照りつける太陽を悔しげに、にらむばかり。
わたしたちは、働き続けた。
いつかまた、この世界に闇が訪れると信じて。
静寂が。
――――静寂をもたらすのは、誰?
――くらやみを |
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| タイトル |
69/100 僕は後悔する(二) |
今日の気分 | 終わります |
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ジョニーの鳴き声がする。
よかった、もう家だ。角からしっぽがのぞいた。
あれ? ジョニー、リードつながってなかったのかな?
「ジョニー! もうダメじゃないか、おばさんが心配するよー」
ぼくはもううれしくて、心強くて、角を走って曲がった。ランドセルがせなかに当たる。
振り返ったのは、ジョニーじゃなかった。
そのしっぽの持ち主は、ゆうれいの本でみたそれと同じ顔をしていた。
「お、ボーズ、寄り道するなよ? 母ちゃんの言うことはよくきくんだぞ」
それは、しんせきのおじさんみたいな声でそういった。
ぼくはこわいのと、おどろいたのと、どうすればいいのかがわからないのとで、その場に立ちつくした。
ジョニーはそれにほえ続けている。
「返事は?」
それが少し顔をしかめたので、ぼくはふるえる声ではいと返事をした。
「ああ、それでいいんだよ、それで」
ひとしきりうなずくと、満足したような顔でどこかへふらっと消えてしまった。犬種は、わからない。
ジョニーはまだほえている。
本通りの顔だった? と聞かれれば、そうだったかも、としか答えられない。
何せとっさのことだし、覚えていたとしても夢に出てきたらこわいし。
別に、しんせきのおじさんに似ているわけじゃない。あれはタトエだ。
その日以来、放課後はまっすぐ家に帰っている。
――うそのようなでんせつ |
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――まことしやかにささやかれる
学校の帰り道だった。
ぼくはまだ小学生で、そのころ、ジンメンケンがいる! というのがもっぱら学校中でウワサになっていた。
図書室のゆうれいとかがのっている本――お姉ちゃんがかりてきた――を見ても、あきらかにジンメンケンだけういていた。
ういていた、というのは変かもしれないけど、
ゲームのキャラクターみたいに、なんか見るだけでちょっと笑えるようなそんな感じだった。
……ちょっと笑える、といったのが悪かったのかもしれない。
ぼくは、その帰り道、遭ってしまったのだ、ジンメンケンと。
運動会の練習でおそくなって、でも、ぼくたちの間ではほうかごおそくまで残っている、っていうのがかっこよくって。
だから、日がくれるまで校庭で遊んでいた。
だんだんと人が少なくなって、聞いたこともない
かわいたオルゴールのような校内放送がかかり、ぼくたちはにげるように学校から出た。
なんとなく、その放送が不気味だったから。
三つ目の信号をすぎ、三さろで友達とわかれる。
バイバイ! と手をふり、ぼくはほんの少しだけ早足になる。
お肉屋さんのあげるコロッケのにおいとか、だれかの家の夕ごはんのにおいとか、
ランドセルをせおったぼくを不安な気持ちにさせる。
理由はわからないけれど。
あの角を曲がって、みっつめがぼくの家だ!
ちょっといじわるなお姉ちゃんでもいい、誰でもいい。おとなりの犬のジョニーでもいい。
誰でもいいから、早く、早く顔が――! |
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お遊びで心霊スポットに向かった。
そう言うことをしちゃいけないとは分かってたけど。
強引な友人に引き連れられて来てしまった。
到着して暫くすると突然耳鳴りがした。
まぁ、耳鳴りの殆どが幽霊とは関係ないと聞いていたから関係なく歩いていた。
はずだった。
だけど耳鳴りが段々酷くなって、ノイズへと変わっていった。
そしてノイズの中に何かが聞こえ出す。
ナニナニナニナニナニ―?
突然の声。
遠くなる意識。
その後のことは覚えてない。
ただ、目が覚めるとそこには何もなかった。
++++++++
私は死んだのだろうか?
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すこし、変だなとは思っていた。
昔のことを思い出したり、霊感なんてないのに、
何かに腕をつかまれたような青いあざが見えたり、青黒くなった足を都市伝説と結び合わせて考えたり。
ニュースでは騒がれていた。
女子大生、女子高生、それからまた女子大生。
何人もの女性が忽然と姿を消し、その後無残な姿で発見されていたこと。
そのニュースを見ながら、物騒ね、と母と話していた。
「あなたも気をつけなさいよ?」
わかってるよ、となかば口癖のように返していた。
そんな事件に自分が巻き込まれるなんて思っていなかったし、漠然と大丈夫だと思っていた。
だが、それは突然。
恋をするよりも、突然訪れる。
いや、訪れた。
あの日、友人の見舞いに行った帰り。いきなり肩をつかまれる。
背筋が凍ったのもつかの間、頭部に鈍い痛みを感じ、そのあと――意識はない。
いま、どこにいるんだろう。
わたしの一部は。
視界だけは今もぼんやりと見える。
けれど、見えるは見覚えのないコンクリートの壁。
生きているのか、死んでいるのか、わからない。
ここが死後の世界なのか。
声も出ない。
そうか、夏風邪をひいた友人を思い出したのは、E高の女子生徒の顔が思い出せなかったのは、
前触れだったのかもしれない。
助けも呼べない。
もう家に戻ることもできない。
遠い、あの夏が、懐かしい。
――とおくでせみがないている |
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またか…。
友達と放課後に残って会話をしていると不意に視線を感じてそう思った。
このクラスにいるといつもそう。
後方の扉から視線を感じる。
何故かは分からない。
私には霊感なんてないはずだと思ってたのに。
「でさー…」
友人は気付いてないようで他愛のない話を続ける。
「なんにしても早く結婚したいなー」
「はやっ」
「玉の輿捕まえてーかわいい子供作ってー」
「何それぇ?」
適当に突っ込みながらも感じる視線が気になる。
「吏夜は?」
「取り敢えず大学行って就職する」
「夢ないね」
「おらー、お前らさっさと帰って勉強しろー」
ひょいと例の後方の扉から覗いた担任に返事をして立ち上がる。
友人たちが後方の扉から出るのに続いて私もその扉から出る。
その時は既に視線のことなんて忘れていた。
扉から出るときに声が聞こえた。
「ワタシモナカマニイレテ…」
と言う少女の声が。
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「はい、こちらは現場です。見つかったのはミヤコさんの学生証です。
発見した方の情報によると、こちら、ここですね。
この川にかかる大きな橋のちょうど目隠しになる場所に落ちていたとのことです」
食卓テーブルで、母がうなだれている。ときおり、しゃくりあげるような声。
真っ黒だと思っていた髪は、ところどころ白い。
強く、しなやかだと思っていた身体は、いつの間にか細く、小さくなっていた。
テーブルにはわたしの卒業アルバムや、ずっと遠い昔に渡したおてつだいけん、
日付が数週間前の新聞、日焼けした写真が散らばっている。
近いけれど、決して近づくことができないこの距離。
「今の心境は!? 娘さんの――!」
外界の声、顔をしかめたくなるほどのフラッシュ。なにも言葉を返さずに、玄関の戸を閉める。
肩を落とし、いつもよりもずっと疲れた表情の父がリビングへもどってくる。
母と会話をかわすことなく、ソファに深く座り込むとうつむいたまま。
無遠慮に戸をたたく音が響く。そのたびに、傘立てが動いていた。
扉は休むことなくフラッシュを浴びせられている。
「遺体は欠損が激しく、本人と確認するには時間がかかったようですが――」
垂れ流しのテレビから、興奮を装ったレポーター。
雨は静かにふりつづき、レポーターが歩くたび、カメラクルーが進むたびに、ぬかるんだ地面の音が混ざった。
「やはり学生証が確かな証拠となったようで――」
ブルーシートで覆われた橋のたもと。レインコートをかぶった警官が、近づかないように包囲している。
天気のせいか野次馬は少ない。
「警察の情報によりますと」
右肩はひどくえぐられている。
そして、左腕と、左足、首から上がまだ見つかっていない。
声すら失う。
――ちかづけない
――とおいそんざい |
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