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2008年07月(27)
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翌日、桜姫に会うために祭へ参加することが決定した凪夜はせっせと浴衣捜索をしていた。
「たしか・・・去年か一昨年浴衣をきたような・・・」
部屋のクロークをあさるも、見つからず仕方なしに1階へ向かった
「雪さん。僕の浴衣知りませんか?」
「貴方の浴衣?自分の部屋にはないの?」
雪と呼ばれた女性は洗濯物をたたみながら声だけで応対した。
彼女は凪夜を引き取った親で、近くの病院に勤めていて、生活リズムが不規則の為自分の旦那とも顔を合わせる事はなかった。
「あぁ。お父さんの部屋かもしれないわ。」
手を休めるとそっけなく凪夜の分の洗濯物を手渡し、立ち上がると父の部屋へ向かい、押入れの中をあさりだした。
その姿を後ろから眺めるとその場をまかせ自分の部屋へと一旦戻ると机の上の携帯がメールを受信していた。
『ちゃんと浴衣着てくるんだよ!?』
デコレーションされたメールが凪夜の携帯が受信していた。
昨夜、和へと電話した霄の口からでた単語は
「全員浴衣で集合」
とのことだった。どうやらあの電話の最中に浴衣で行く事が決定したらしい。
代貴は浴衣という単語にどこかうれしそうに微笑み、どこにあるかなとつぶやく霄に凪夜は同意を示す笑顔でうなずいていた。
「凪くん。あったわよ」
下から少し大きな声で呼ばれると今行きますと返事を返し、カタカタとメールを打ち始めた
『こちらは浴衣を発見しました。そういう和さんはちゃんと着付け自分でできるんですか?』
絵文字など、なにも付けずにその文章だけ打ち込むと送信ボタンを押し、再び机の上に戻した。
リビングには、浴衣セット一式がそろえられていた。
「紺と黒。どっちがいい?着付け自分でできるわよね?」
テレビを見ながらコーヒーをすする母の隣に座り、浴衣を確認するとにこりと微笑み
「ありがとうございます。霄たちと相談するのでどちらもかりますね。後、着付けはできますから大丈夫です」
「あらそう。夕飯とかも一緒に食べるんでしょ?」
凪夜はその予定だと告げると部屋へともどって行った
部屋にもどると携帯は光っており、送信して3分も立たないうちに和から返事がきたのだということを安易に考えた。
『浴衣ありました?紺と黒ふたつありますが貸しましょうか?』
凪夜は和のメールを確認する前に霄へとメールを飛ばした。 |
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「……分かった。じゃあ、少し、調べてみようぜ」
「霄、やる気になったんですか?」
「お兄ちゃん……」
唇の端を吊り上げた凪夜とは対照的に、心配そうな顔をする代貴に小さく首を振る。
やる気になったかと問われれば、霄は違うと答えるしかない。
ただ、御伽噺よりも、興味がある事柄を思い出したというだけで。
調べると言う方法で直ぐに思いついたのは唯一の手がかりについてだった。
棚の上に備えられた古い電話機を手に取ると、既に暗記している番号に掛ける。
出たのは和の母親だったが、ぱたぱたと言う足音と共に和が電話を変わった。
和の声に不満の色が混じっている。
「カレー食べながら話していい?」
電話口の第一声に、霄は受話器を耳から離した。
呆れるのと同時に邪魔したことをすまなくも思う。
しかし普通、電話しながら食べるだろうか。そんなはずは無いのにカレーの臭いがする気さえ、する。
駄目だと言ったって和は食べながら話をするのだろうなと思い、小さくため息を吐いて了承する旨を伝えた。
「ありがとー。そーくん、好きだよー」
「分かったから……せめて呑み込んでから喋れ」
絶対米粒のひとつやふたつは受話器に飛んでいると思いながら苦言を呈すると、意外にも素直に電話越しの声は黙り込んだ。
「図書室の本、あるか。というか無事か?」
「あるよ、失礼だな……」
もう一度あの話を読んでくれないかと言うと、不満そうな声と共に拒否の言葉が返ってきた。
まあ、予想していたので、それは構わない。だいたい頭に入っているし、それでも聞いたのは、人伝に聞くと他の要素を見出せないかと思ったからだ。
「……和、お前、桜姫に会いに行くか?」
「あれ、そーくん、本気で行くつもりなの?」
「う……ん、お前が行かないなら行かない」
和が断れば綺麗に諦めるつもりだった。そもそも、出来ることなのかどうかも定かではないのだが。
しかし霄は和が答えるだろう答えを知っていて、多分和もそうなのだろうと思っている。
「そーくんは行きたいの?」
「俺は……そうだな、会いたいのかもしれないな」
苦笑しながら正直にそう返すと、電話の向こうの声はくすくすと笑って、その合間にいいよという言葉が混じった。
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本か。
凪夜の言う『本』が何を指しているのかは考えるまでも無い。
あの御伽噺にしては…文字通り…血生臭い赤と墨の古書。
図書室から持ち出している以上、確かに母親がいる前では話せない。
その点を流石の凪夜も考慮しているのだろうか。……違うのかも、しれないが。
「本は別にどうでもいい。だってそうだろ、あんな御伽噺、本当に御伽噺でしかない」
確定した事実を語っているようなあの古書が実際ではないのは確かだった。
図書室でも述べたように、桜雲樹も桜姫も桜下国も、有り難いことに健在である。
例えば桜姫が国を滅ぼすと言うのが事実なら、何故あの古書はそれを知っている。
実際に滅んでもいないし、歴史の授業でもそんな事象は聞いたことが無い。
同意を求めるように夕食の支度をする代貴に視線を遣るが、視線の意味が理解できなかったのか、
或いはもしかすると本当だと思っているのか、困ったように僅かに首を傾げるだけだった。
「もし御伽噺じゃなかったらどうします?」
「だから、御伽噺じゃなかったら事実ってことにだろ。でも実際にそんなことは無い。だからあの古書は思想家の妄想かそうでなければ頭の可哀想な奴の空想の産物、そう考えるのが自然だ」
「どうして分かるんです、事実ではないって」
はあ、と間抜けた答えを返した俺を誰が責められるのかと霄はため息を吐く。
呆れたように反論しようとする霄を、凪夜が遮った。
「面白いじゃないですか。確かめましょうよ、本当なのか。一生に一度の機会ですよ」
「そりゃあ機会が今回だけなのは知ってるけどな……確かめるって、どうやってだよ」
「取りあえず、桜姫に会ってみるとか」
それこそ夢物語だと霄は顔を顰めた。
確かに樹に近づけるのは祭の日だけだ。樹は国を支える要、大事があっては取り返しがつかない。
その為の措置だが祭の日であっても、衆目に触れることを許されない桜姫を目にすることは出来ない。
有力者の娘が桜姫の代理として壇上に立ち、樹を讃える儀式を行うのが通例だと聞いている。
「会うことが許されないというのは問題ではないように思えますけどね」
「……会いに行くから、ってことか。樹に忍び込んで、桜姫様に会う、と」
言葉より如実に表される同意の視線に、霄はため息を吐きながらも、少し逡巡する表情を見せた。
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家の前で凪夜と別れると、和は軽快な足取りで2,3歩、玄関までたどり着き速やかに鍵をあける。
扉を開くとあたりに漂う、家の前でかいだのより濃厚な匂いが嬉しくてたまらない。
見た目はモダンでも、中は純日本家屋風のこの家は、実家が料亭だった母親の趣味である。
石畳に玉砂利が敷き詰められたたたきに皮靴を脱ぎ捨てると、和は竹材のフローリングを靴下で滑るようにして台所へ一目散へ向かった。
「おかえりー」
「ママ、今日は何カレー?」
「ひき肉よ。たまねぎたっぷり、じゃがいもは大き目」
ウインクと共に彼女を出迎えた母親の横に並びシンク台で手を洗って口をゆすぐ。
傍らのタオルで水分をふくと、母親の髪を団子状に束ねていたヘアゴムを抜き取り、それで自分の髪をひとつにまとめた。
栗色の大きいウェーブがかかった母親の髪の毛がばさっと広がる様を見て、和は嬉しそうに笑う。母親の髪のふわふわ具合が好きで和はこのいたずらを好んだ。
「のどちゃん、自分のゴム使ってちょうだいよ。これじゃ料理しにくくてたまらない、暑いし」
「いやー、いちいち洗面所まで行くの面倒だもの」
「じゃあカレーに私の髪の毛が入っちゃってもいいのね」
「その時はとって食べればいいじゃない、気にしないもんそんなの!」
「へへ」と再び嬉しそうな笑い声をあげると、和は近くに置いてあった鞄を手に取って台所を離れる。
座椅子の置いてあるダイニングとそれに続くリビングを抜け、一段低い所に置かれていたサンダルをつっかけると小さな中庭を横切った。
離れの茶室のようにつくられている自分の部屋に入ると、鞄を机の上に置いた。そして、その鞄の中から古書を取り出すと三つ折りにたたまれている布団に腰かけてパラパラとめくる。
乱雑にしすぎてしまうと崩れてしまいそうなそれを眺めるのは存外根気が必要であり、徐々に和にとっては面倒な作業になりつつあった。
いつの間にか古書を脇に置き、医学書を眺め始めてしばらく経った頃、中庭から母親が晩御飯を告げる声が聞こえた。そしてそれとほぼ同時に電話が鳴る音も。
和が自室から出ると、受話器を持った母親が母屋側の窓から顔を出し「霄くんの家から」と差し出す。
カレーがおあずけになったことに少々不満げな顔で受け取ると、電話の向こうの相手に「カレー食べながら話していい?」と開口一番言うのだった。
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「いつもありがとー」
「いえいえ。」
中身はいわずとも、来るたびに買うものはいつも同じだった。
霄の大好物である桜餅。
それと、そのときの季節にあった練餡の可愛い和菓子がひとつ入っていた。
「今回もかわいい和菓子がありましてねぇ。」
「ほんと?」
「是非代貴さんへと思って。」
相手の喜ぶ顔を見ると満足したように笑い相手の頭をくしゃくしゃとなでると、ソファにどかりと座る霄の姿を確認した。
「おや、どうしたんですか。ぶすっとした顔をして。」
にやりと笑うと横に居る代貴をひきよせ抱き付いて見せた
「おい!!!!!なにして!!!!」
「ええぇええぇ!?」
あまりにも突然の出来事に口元に持ってきていたお茶を噴出しそうになりながら、凪夜と代貴の間にはいり引き離す霄と突然抱き付かれたことに驚く代貴を交互に眺めながら満足そうにうなずき
「うむ。今日もすばらしい反応をありがとう」
にこりと微笑みながら側にあったソファに腰掛けた。
「完全に遊んでるだろ・・・」
脱力する代貴を支えながらソファに座らせると、あきれながら溜め息を一つ落とし、霄も先ほど座っていた場所へと腰掛けた。
「そんなことないですよ?愛情表現っすよ」
「・・・ゆがみすぎだろう」
へらりと笑って言う凪夜のあまりにも満足げな笑みに霄はげんなりしながら苦笑交じりに答えた。
相変わらず脱力している代貴を見て、凪夜は一声かけた
「代貴さん。ほら、さっきのおかしっ」
「あ!!そ・・・そうだっ」
完全に忘れていたのか、手に持っていた袋を眺めながらお茶ももってくると台所へ向かう代貴を確認すると、真顔にもどりながら霄へと向きをかえ
「あの本、なんだとおもう?」
和が持って帰った本がやはり気になるのか霄へと本の話題をもちかけた |
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通いなれた友人宅への道。
途中にある和菓子屋で桜餅を買うのも日課になっていた。
もうすぐ祭ということだけあって、街は祭一色になっていた。
すれ違うカップルも、家族も、みな祭の話をしていて、凪夜の耳にやたら「桜」という単語が大きく入ってきた。
図書室での奇妙な本のことが少し引っかかるが、調べるにもどこをしらべればいいのか・・・
空を舞う花びらを眺めながら考えていた。
ぼーっと考え事するが、答えがでないままいつも友人宅へ到着する。
この距離感が調度いいのか。
凪夜にとってこの考える時間も楽しみのひとつであった。
家の前でこれからでかけるという友人の母とであった。
「おばさん、こんばんわ。」
「あら、凪夜君。霄たちなら家にいるわよ」
「えぇ。いつもすみません。」
「いいのよいいのよ。貴方も和ちゃんも兄弟みたいなものでしょ?」
「・・・そうですね。」
軽く会釈をすると緩んだ顔で挨拶をする凪夜に笑顔で反応する友人の母の優しい笑みに和みながら相手の言葉にしばらく考え込み万面の笑みで答えた。
実際、そう思っていたのは自分だけなのかもしれない。
しかし、凪夜の中では彼女の言っていることは、まんざらでもなかった。
「じゃぁ、いってきます!」
他愛もない会話をすると、時計をみてあわてた様子で凪夜が来た方向へ駆けて行った。
しばらくそちらの方向を眺めるも、親指ほどの大きさになると家のチャイムをならした。
『はい。』
『さて、僕はだれでしょう』
『あははっ 今あけるねー』
代貴がインターホンにでると、すこし冗談交じりにとぼけた声で答えた。
しばらくするとパタパタという足音と、なにかにつまづいたのか、がたんという物音共に扉から代貴が顔をだした。
「おまたせー」
「ありがと。ところで・・・何の音?」
少し空いた扉を開くと相手の頭をぽんぽんと軽く叩き、部屋の中をのぞきこんだ。
奥に椅子が倒れてるのをみると、どうやらあれに引っかかって倒したらしい。
「怪我、増えてませんか?」
「だ・・大丈夫・・・だよ?」
にっこりと笑って代貴をみると少しあわてながら凪夜の質問に答えた。
なら、よかったと靴をそろえながら言うと、手に持っていた桜餅の入ったお土産の包みを渡した。
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光々と家の灯りは既に点っていた。母か父が先に帰ってきていたらしい。いつもは代貴と兄が家の灯りを点して両親の帰宅を迎えているのに、今日は遅くなってしまった。
「ただいま」
家の中へ呼びかけると香ばしいの香りと共にひょこりと奥から女性が顔をだす。代貴と兄を引き取ってくれた母だ。
「お帰りなさい、遅かったわね。
もうすぐ夕飯できるから制服着替えてきなさい。」
あの香りからすると今日の夕食は揚げ物だろうか。そんなことをぼんやり考えながら返事をして自分の部屋へ足を向けようとする。だが兄にそれを腕で制された。
「着替える前に膝、消毒してこい」
「あ…うん」
歩いているうちに痛み慣れしてしまっていてすっかり忘れていた。改めてその存在を確認するとジクジクとした痛みが再び燃焼を始める。
奥のリビングでは母が夕食の準備をしていた。制服のままきた代貴を見て心得た様子で救急セットを出してきてくれた。
「また転んだの?怪我は膝だけ?」
「うん」
母は「良かったわ」と代貴の頭を優しく撫でると再び夕食の準備に戻っていった。ふと食卓を見ると母のイスによそ行き用のバッグがかかっている。
「お母さん…出掛けるの?」
「うん、ちょっと用事ができちゃって…
お父さんも遅くなるって、そういうことで今夜は霄くんと二人ね。夕食は作っておいたから」
頷くと母はまた申し訳なさそうに眉を下げて「ごめんね」と言った。 |
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わいわいと談笑する帰り道、いつもの二手に分かれる道で4人は別れた。
「そーくんとこ今日はいかないの?」
「そうですねぇ。一旦家に帰ろうかなーと」
少々急ぎ足の和の一歩後ろをゆっくり着いて行き、へらりと笑って質問に答えると相手のカバンに視線を落とし、いつもより1トーン低い声で相手に問い
「それ、持って帰ってどうするつもりなんすか?」
「わかんない。」
相手もその声色の変化に気が付き少し真剣な口調で答えるも、二人は目を合わせにまにまと笑うと
「それにしても霄のあの顔!傑作でした。」
「ほんとほんと!ただの古書なのにさぁ。」
図書室での出来事をケタケタと笑いながら家へと向かった。
お互い合えてあの古書の話を避けていたのか・・・
内容に付いての話題は一つもでないまま。
きがつくと二人は和の家の前に到着していた。
家からは和の言うとおりカレーのいい匂いが漂っていた。
「おや、本当にカレーだったんですね。」
「ウソ付いてどうするのよ!じゃぁ、また明日ね!」
「はい、おやすみなさい。」
家の前で和と別れを告げると、家の中へ入っていくのを確認し、自分の家へと向かった。
向かったと言っても、隣の家なのでさほど遠いわけでもなく数歩行けば直ぐに我が家であった。
門を静に空けると明かりの付いて居ない家をしばらく眺め、ぽけっとから鍵を取り出し重たい鍵の開く音が響くと誰も居ない家に無言で帰宅した。
リビングには現金のみが置かれていた。
それを眺めるとため息を一つ落とし、自室へと向かった。
2階にある自室は必要最低限の物しか置いておらず、ハンガーに制服をかけ私服に着替えると鍵と携帯と財布だけ持ち家を後にした。
和の家の前を通り過ぎ、先ほど4人で別れた先の霄の家へ向かった。
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| タイトル |
壱拾八:子供たちの目論見 |
今日の気分 | 2/2 |
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カレーに浮かれて完全に現実世界を無視して一歩先を歩く和とその危なっかしい足取りを見捨てることもできず付き添う代貴の少し後方で、しばらく口を閉ざして凪夜がしゃべるのを聞いていた――あるいは聞いていなかったのかもしれないけれど、霄が唐突に疑問を投げかけた。
「それで、どうするんだよ。祭りの日は」
「おや、気になっていたんですか」
凪夜が霄をおちょくるように笑いかけると、それにはもう慣れたといった様子で霄は凪夜から視線を外し、前の女子らにもう一度たずねかけた。
最初にその呼びかけに反応した代貴は、歩く速度をゆるめ、男子たちが自らのところに追いつくまで待ち、それから表情の端々に不安さを覗かせながら口を開いた。
「でも、それって、良くないんじゃ……」
「代貴さん、どんな行動をとるかは良いか悪いかではなく楽しいか苦しいかで決めた方がいいですよ」
「もっともらしく変なこと言うな」
「だからー、どっちでもいいじゃんかー」
遅れてようやく友人たちの話の内容に気がついたらしい和が、少し離れたところから軽く叫ぶようにして話に参加する。「あいつ完全にカレーのことしか考えてねえ」という霄のつぶやきには故意か過失か反応を返さず、来た道を戻って3人に合流した。
「今日はビーフカレーだといいですね、和さん」
「別にポークカレーでもいいよ、ベジタブルカレーでも……まぁいいや!ママのカレーなら」
「カレーから離れろっつーの!」
霄が終わらないボケ同士の会話に突っ込みを入れた瞬間に、代貴が道のちょっとした隆起に足を引っ掛け前のめりに地面に倒れ込んだ。
とっさに軽く舌打ちをした霄が、かろうじて顔面衝突を免れた代貴を助け起こすと、代貴は怯えた様子で「ご、ごめんなさい」と兄に繰り返し謝った。
「お前のことを怒ったわけじゃないから安心しろよ」
「痛めたところはないですか?」「それより傷はー?」
霄の背後から同時に問いかける2人に促され、霄が代貴の全身に目を走らせると「あ」と小さく声を上げた。
「よっち、左の膝小僧すりむいてるよ」
「あららーこれは痛そうですね」
「後で消毒しなきゃだめだ」
子供達の話し合いは想定外の――ある意味想定内のアクシデントで中断され、帰り道も一向に進まない。日はすでに落ちかけて、あたりはだいぶ薄暗くなってきていた。
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| タイトル |
壱拾七:子供たちの目論見 |
今日の気分 | 1/2 |
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和は自らの手を伸ばし、凪夜の言葉に少し弛んだ霄の両手からするっと書物を抜き取った。
古書をぞんざいな手つきで扱うことに少々びくついた様子の代貴にウインクを投げかけながら、カウンターの上に投げ出してあった自分の鞄の中にそれを閉まってしまう。
「とりあえず行くのも行かないのもどっちでもいいからもう帰ろう。今日は久しぶりにママの手料理なんだよ、晩ごはん。しかもカレー。これで早く帰らなかったら罰が当たるし」
「っていうか、お前、それ、パクるつもりか」
霄の非難がましい視線を難なくスルーしながら、鞄のロックをかけてしまう和。
助け船を出す――というよりは自らも面白そうなにおいのすることに便乗するがごとく凪夜が、
「大切な資料ですよ、霄。それとも放課後に罰掃除をさせられるような品行方正な友人は教師陣にこれをチクリますか?ああ、それとも実は桜姫にビビってるんですかね?」
と言うのに対し、霄は「別にそんなことはねぇよ!」と語気を多少荒げて、鞄を引っ掴んで和と凪夜の間を通り抜け、廊下への扉の取っ手に手をかけた。
その扉を勢い良く開く前に後ろを振り向いて視線を自身の妹に合わせると、もう落ち着いた口調で「ほら、行くぞ、代貴」といつものように声をかけ、それから立てつけの悪い扉を強引に開いて廊下へと消えた。
代貴はといえばかけられた言葉に慌て、首をあちらこちらに向けてそこら中を見回して鞄を探し、見つからずにさらに慌てふためいている。
「ま、待って、おいてかないで」
「大丈夫ですよー、忘れられてるかもしれませんけど、僕たちはまだいますからね」
「よっち、鞄、こっちこっち」
勢いよく出て行ったものの自分の後ろに代貴がついてこなかったことを不安に思ったのか、再び図書室に戻ってきた霄と共に、今度は4人そろって下駄箱へ向かい、靴をはきかえて校門を出た。
途中までは同じ帰り道をたどる4人に、数時間前より量が増したようにも思える桜の花が降り注ぐ。
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