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「あんたの言ってる事は、自分勝手な我侭だ! そんなの、あたしは許さないよっ!!」
長剣を手にして、マッドが走る。それにアドレイ、そしてエリーが続く。
「オメェらになんざ、許されようなんて思ってねぇよっ!」
「トーランド・レグ! あんたを今ここで、とっ捕まえてやるっ!!」
トーランドの方も、同じようにして走り―両者の距離は、瞬く間に詰まる。
飛び散る火花。
最初に、振り下ろされた一撃を受け止めるマッド。
その両サイドからアドレイとエリーが、トーランドに向けて刃を閃かせる。
それに勘付き、マッドの剣を弾き返してから、迫ってくるアドレイとエリーの攻撃も、後方に飛んでかわした。
…見た目以上に動きも素早いな。
「じゃあ…そうだな。俺はどうしますかねェ」
このまま剣を持って突っ込んだ所で、三人と同じように弾かれて…無駄に体力を消耗するだけだな。
数ではこっちが勝ってるが、向こうは思った以上の身のこなしと、恐らくスタミナもあるだろう。
長期戦は、こっちが不利になる…と思う。
「…こっちで、援護しますか」
俺は背に背負ったままの、身の丈ほどもある一本の弓に手を伸ばした。
「風を司る神よ。我は汝と契約を結びし者なり。我が呼び声に答え賜え」
弓を構え詠唱を始める。と、俺を中心として周囲にふわりと風が舞い、髪や服の裾が揺れ出す。
ヒュッ…と風を切る音が耳に届き、それが徐々に強さと勢いを増して、構えた右腕―弦を引いている場所に集まって行く。
「風よ。我が手に集いし風よ。
大気を揺るがし、空を引き裂く刃となりて、悪しき者を打ち払え」
集った風が徐々にその姿を形成し、風の矢が生まれる。
色が付いている訳でも何でもない透明な矢なのだが、俺の目にはその姿がはっきりと見えていた。
重量、質感なんか感じない。ただ、その部分に風があるだけっつーか。そこだけ強い風を当てられてるって感じっつーか。
さァて…後は、どのタイミングで放つか、だな。
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| タイトル |
身勝手な賞金首の戯言 |
今日の気分 | 続きます |
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「黙ってばかりいないで、ちゃんと喋れよ! その口は飾り物か?!」
苛立った様子で身を乗り出したのは、マッドだった。
「っていうかあんた、弱い人ばかりを狙って…汚いんだよ!
テネリを壊滅させたのもそうだし、その前に起こしていた事件だって、同じようなやり口なんだろ?!」
「しかも、他者の名前を名乗って、だなんて…最低ね。反吐が出るわ」
火を噴いたマッドに、エリーが続く。
大人しくしていたようだが、腹の中ではこの男に対する鬱憤が、二人とも溜まっていたようだ。
アドレイだって、落ち着いた顔してるが…さて。そン中はどうなっている事か。ま、気持ちはわからなくも無ェけどな。
「最低でも何でも結構だ! 生きる為に金を稼ぐのの何処が悪い?!
テネリの奴らも、過去の奴らも…弱いからああなるんだ! 世の中は強い者が勝つ! 強い者が何でも手に入れる! 弱肉強食なんだよ…!!」
トーランドは、腰に下げた得物―幅広の刃の剣を、手にした。
そしてその切っ先を、こちらに向ける。
「…まぁ、大人しくしてくれるとは思っていませんでしたけど。こうもわかりやすいとは…
よく彼は、今まで生きてこられましたね」
呆れたように、アドレイは呟いた。そして自身も得物を手にする。
「そりゃあ、他人の名を語ってたんだもの。生きてこられたんじゃない?
えぇっと、こういうのって…虎の威を借る狐、って言うんだったかしら?」
続いて、エリー。いつの間にか彼女も、得物を手にしている。
「ごもっともです」
一瞬目を合わせ、ニヤッと笑い合う二人。…怖っ。
でも、ま。善人気取る気はさらさら無ェが、俺としてもこういう奴は、ちと許せねェっつーのが本音だ。
他者の命を平気で奪っておいてコレだからな。生きる価値は無いと騒ぐ者もいるだろう。
だが、だからって俺は、その命を奪おうとも思わない。
こういう奴に灸を据える役目は、もっと上の立場の奴だ。俺じゃない。
俺の役目は、こういう馬鹿野郎をとっ捕まえて。上の立場の奴に引き渡して、賞金を貰う。
それだけだ。
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開けた視界。巨大な空間。
松明など必要ないくらいに明るいここの壁には、いくつものランプが取り付けられていた。
その先に浮かび上がる人影に、俺達は互いに顔を見合わせ頷き合った。
「てめェがマイク・マイヤーか?」
松明の炎をそちらに向けて、人影に問う。
その肩がビクリと跳ねて、その視線がゆっくりとこちらに向かって動いた。
松明の炎に映し出された、強面の顔。厳つい体つき。そしてその風貌。
…似てる。この男。やはりマイクに、全体的に似ている。
これは名乗れる訳だなと、一人こっそり納得した。
「何だぁ、オメェらはよぉ…?」
声まで似た感じだよオイ。
「…あんたをここまで追って来た、って言えばわかンだろ? 偽マイク…トーランド・レグさんよ」
「………!
オメェら、ハンターか…!」
「いかにも」
驚愕に開かれるその瞳へと、意地悪い笑みを向けてやれば。
すると偽マイク…トーランドの身に纏う空気が、殺気立ったものへと変貌した。
それを感じた瞬間、俺だけじゃないエリーもマッドもアドレイも、この男が本物のトーランド・レグだと確信した事だろう。
「トーランド・レグ。貴方がマイク・マイヤーの名を語り悪事を働いた事は、もう我々はわかっています。
…ので、あまり手を煩わせないでほしいのですが?」
ぶっちゃけ、とっとと捕まれって事だよな。
しかしトーランドは、アドレイの言葉に憤慨したように、殺意の籠った視線を投げ掛けてくる。
だがアドレイはアドレイで、素知らぬ顔でそれを受け流した。
「つかよ、確認させてくれやトーランド。
あんたがテネリを襲った理由は金、で間違い無ェか?」
「…」
ん。無言。つー事は肯定、と。
何も言わねェって事は、イエスって事なんだよ。ノーだったら違うって、口から出るじゃねェか。
「もう一個。その金は、あんたが国外逃亡を図る為の資金って認識でオーケイ?」
「…」
まただんまりかよ。…肯定、と。
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僕は壁にそっと手をついて、ゆっくりと周囲を見回す。
確かにそうだ、気配が遠くなっている。さっきまでどんどん濃くなってきていた空気がどんどん抜けていくように。
「僕もそう思います。人の気配が薄れていっている……どこかで間違っていますね」
「でも、どこにも分かれ道はなかったよな?」
「そうでしたね」
「落とし穴とかも……なかったわよね?」
エレオノーラが言うのにも、僕は頷く。そうだ、確かにそのとおり。
でもこの薄い気配は――
「……そうか!」
ラディがはっとしたように短く叫ぶと「戻るぞ!」と僕の傍を通り抜け、来た道を戻り始める。
「ちょっとラディ、どういうことなの?」
「迷路だよ、迷路!」
エレオノーラが問い質している間に、マドレーンは反射的にラディの後を追っていく。
「なるほど」
少し考えてラディの発見に気づくと、僕は「行きましょう」とエレオノーラを促した。
「ねえちょっと、どういうことなの?」
ついてくる彼女に、僕は簡単に説明をした。
降りてきてこの道に入ったところまでは合っている。
しかし、ここまで進むと違和感がある。
わかれ道も落とし穴もなにもなかった、と、いうことは。
「つまり、進行方向と逆にわかれ道があったんです」
「逆……後ろの方にってこと?」
さすが、こんな時に飲みこみが早いのは賞金稼ぎらしいといえるだろう。
エレオノーラの外見はまったくそれらしくは見えないが、中身はなかなかなのかも知れない。
「そうです。後ろに向かって伸びる道に気づかなくても不思議じゃありませんね」
「確かに、それなら話はわかるわ。――あ、やっぱりあったみたい!」
エレオノーラが指さした先には、確かに後方へ延びるわかれ道が、今来た道の方へと分かれていた。
その前で、ラディが得意そうにその先へ松明を掲げている。
「気配はこの先だ、ビンゴだぜ」
ニヤリと笑みを浮かべてその道を進んでいく。ラディの後にマドレーン、エレオノーラ、そして僕。
確かに彼の言う通りだ、人の気配はどんどん濃くなっていく。当たりだ。
進むにつれて高まる緊張感と、小さくなっていく靴の音。
呼吸さえも大きく聞こえそうなほど沈黙に慣れた頃、目の前が大きく開けた。
広場のように開けた場所がこんな地下にあったなんて。
そしてその先に、人影が見えた。
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嫌な感じだった。岩が妙に湿った感じがする。
とはいえ、本当に濡れているわけじゃない。地下深くだからだろうか?
ラディが先頭に立って道を進んでいく。確かに人の気配が岩肌から伝わってくる。
……そういえば、ラディも言っていたか、『人の気配がする』と。
もしかして、ラディも何らかの魔力を持っているのか?
そう考えれば自然だけれど……しかし彼はそれについて何も言わなかった。
隠すようなことではないと思うのだけど。
進み始めて少し経った頃から、違和感を大きく感じるようになってきた。
少し前まで色濃く感じていた人の気配が、すうっと薄れていくように感じる。
これは僕だけなのか、もしくは魔法を封じる何かがあるのか――?
そっと岩肌に触れて集中すると、いつもどおりがらりと岩が砕けて崩れた。
「まさか、な」
「どうした?」
崩れた音で振り返ったのだろう、顔を上げるとマドレーンが足を止めている。
カラカラと岩肌に零れていく壁の欠片に目をやった後、マドレーンがその藍色の瞳で今度は僕を心配するように足元から頭の先まで眺めてから、ふっと口元を緩ませた。
「大丈夫みたいだな」
ニコリと笑う彼女に僕はいつものペースを取り戻し、「ええ、ありがとうございます」とにっこり返す。
「なあにマッド、どうかしたの?」
前方の二人も足を止めて振り返っている。
不安そうに僕とマドレーンとを交互に見つめるエレオノーラに「大丈夫です」と返すと、ラディがちょっと考えるように周囲を見回した。
「ラディ?」
「なんかよー……おっかしーンだよなァ」
「おかしい? この地下がか?」
「降りてきたときはしっかり気配感じてたんだけどよ、今はなんか……遠くなったみてぇな?」
不思議そうに周囲を見回すラディが、僕と同じことを感じていたということに確信をもつ。
そうだ、この道は違う。フェイクだ。騙されるな。
「迷ったってこと? でも、降りてきてからまっすぐだったわよ?」
「そーなんだよなァ。降りてきたときはしっかり気配も感じてたんだが……」
ラディはしきりに周囲を見回して、そしてちらりと僕を見た。
見た、というよりもその眼が声にならない問いかけをしているように感じたのは気のせいか?
『お前は、感じないか?』と。
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トンッっと足が地面に着いた。
すぐ近くにはエリーが立っていて、あたしが下りてきたことに気付くと挨拶するように片手を挙げて笑む。
仄かに届く明かりで、なんとかその表情は見えるが――
「…ラディは?」
言いながら視線を巡らせた。
あいつはここに下りてすぐに持ってた松明に火をつけたはず――
考えながら巡らせた視線があいつの姿を捉えるのと。
「あっちよ」
エリーがその居場所を示す言葉を放ったのが、ほとんど同時だった。
あたし達から少し離れた場所。
周りの様子を伺うように――時折、松明を掲げながら、ラディがゆっくりと歩いていた。
下りてきたここは、ちょっとした広い空間になってるみたいだ。
上と違って暗闇に包まれたこの場所では、ラディの持つ松明に照らされて岩肌が見えるだけだけど、あいつは別に身体を屈めたりして歩いてるわけじゃないし、あたし達も普通に立っていられるし、な。
そうこうしてるうちに、ぎっと軽くロープが軋んだ。
それに気づいて、あたしは立ち位置を移動する。
少しして、アドレイが軽々と地に足をつけた。
「よっ、アドレイ」
松明に火を付けたアドレイに向かって声をかけると、アドレイがこっちを向いた。
微かに口の端を上げたアドレイが、周囲を見回しながら呟く。
「地下にこれだけの空間が広がっているとは思いませんでした」
そう言われてあたしも周りを見渡す。
ラディと、アドレイ。二人の持つ松明によって、さっきよりずっと鮮明に周囲の様子が見えるようになっていた。
そこはあたし達――あたしと、エリーがラディとアドレイにあった、あのいくつもの分かれ道があった広場のようなところに少し、似ていた。
ただあの場所よりは狭く……感じるのは、天井がたいして高くないせいか?
「向こうに、奥に続く道があった」
全員が下りてきたのに気付いたのか、ラディがあたし達の方へ近寄りながら言う。
「トーランドはあの奥、かしら?」
「さてね。行ってみなきゃ何とも言えねェな」
エリーの言葉に肩を竦めてラディが言う。
これでいなかったら、それはそれで笑えるよな。
……や、笑ってる場合じゃないんだけどさ。 |
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分かれ道のあとは地下へ、か。
先に行く、といったラディがロープをつたって穴の中へ消えていくのを見送りながら、思わず息を吐く。
ラディが見つけた穴は、一見してわかりにくい場所にある。
その下がどうなってるかわからないが、ロープが垂れ下がってるってことは、下に誰かいた――もしくはまだいるってことだ。
……この道が当たりだって自信たっぷりに言ってたラディの言葉は、信憑性を増してきた。
ラディは勘だって言ってたが……もしかして、あいつしか知らない情報でもあったんじゃないか?
あたしが考えごとをしてる間にも、フックにくくりつけられたロープが微かに軋みながら揺れている。
……と。
一際大きくロープが軋み、振り子のように揺れたかと思うと――しばらくして、その揺れがぴたりと止まった。
少し待ってみても何の変化もないから、不審に思いながら持っていた松明を掲げるようにして穴を覗き込んだ。
――直後、穴の下で小さな明かりが灯った。
「いいぞ、下りて来て」
ラディからの合図。
その言葉にあたしはアドレイとエリーを振り返った。
「――お先にどうぞ」
そう言ってアドレイがあたし達を促す。
「……だってさ、エリー」
「そ?じゃあお言葉に甘えて」
と、エリーが不意にスカートをたくし上げた。
その行動に驚いてるあたし達に構わず、エリーは片側で緩くスカートを結ぶとロープの強度を確かめるように何度か引っ張ってから、穴の中へと消えた。
「……明かり、預かっておきますよ」
「……あー、うん。悪いな」
片手を差し出すアドレイに、持っていた松明を預ける。
しばらくすると、穴の下から「次いいわよー」とエリーの声が聞こえてきた。
「んじゃ、お先」
そう言ってアドレイに手を振ってから、ロープを手に取る。
しっかりしてるからすぐに切れるってことはなさそうだ。
だいぶ湿ってるが、こりゃここ最近つけられたものみたいだな。 |
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| タイトル |
道の先は地下へ |
今日の気分 | いっこだけです〜 |
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“音が違いましたから。崩れた岩のね”
さっきアドレイが言った一言。コレを聞いた瞬間、こいつは俺と同じだと思った。
彼は魔法を使えるって事だ。で、属性は「土」と見た。
あんなの常人の耳で予測すんのなんて、難しい…つか有り得ねェよ。
やっぱあの人に修行を受けたンかな。だよなァ。あの人は土属性魔法の第一人者だし。
「…あ」
周囲を警戒しつつも歩いて行くと、目の前が行き止まりとなっていた。
「きゃっ。ちょ…ラディ、いきなり止まらないでよ」
「悪ィな。だがよ、止まんなかったら俺が壁とキスする羽目になってたんだけど」
振り返れば、痛そうに鼻を擦るエリーの姿が。涙目で睨まれてしまった。
「何? それ、どういう事だよ?」
そんな彼女の後ろから、マッドがひょいと顔を出した。
「もしや、行き止まり…ですか?」
その更に後ろからは、アドレイが視線を寄越す。
おうよ、と頷く。
に、しても…おっかしいなァ。道はこっちで合ってると思うんだけど。
人の気配は徐々にだが強くなってきているし、風だってちゃんと通っている。声も響いてる。
この先に道があったって、おかしくは無いと思うんだが。
「やれやれ。…ここが当たりなんじゃなかったんですか?」
「やっぱり人間、勘だけじゃどうにもならない事もあるのね」
「おいおいラディ、頼むよちょっと」
三人がそれぞれ、呆れた声を出す。
「っせーなァ。ココが当たりなんだって。間違いねェから」
絶対にここであってる。風がそう言ってんだよ、間違いないって。
まさか、隠し通路か? そうならば、何処かにスイッチか何かが…
壁を調べる為に、一歩足を踏み出した瞬間。
「…あ」
足元が、空洞になっていたのに気がついた。
何だよ…また落とし穴か? 一応調べてみる為に腰を屈める。…と。
その岩肌の一ヶ所に、偉く頑丈そうなフックが引っ掛けられていて。そこに一本のロープが垂れ下がっていた。
「…これは」
「ラディ、何かあったんですか?」
頭の上から聞こえた声に振り返り、あそこ、と顎をしゃくって示す。
「あれは…何?」
「ん? ロープ、じゃないのか?」
アドレイと、続いてエリーとマッドも、身を乗り出してくる。
「どうやら続きは地下なようだ。俺が先に行く。降りたら合図をするから、続いてくれ」
三人は頷いた。
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……今の音は、おかしい。
瞬間的にそう感じると僕はそっとしゃがみこんで崩れた岩を手にする。
そこから何かを感じ取るように魔力を研ぎ澄ませれば――感じたのだ、この先の空洞を。
岩の中にある迷路、そして足もとの空洞といえば。
「ラディさん、足もとに気をつけ――!」
「エリー、行くな!」
僕の叫ぶ声と、エレオノーラがすいすいと道を進むのと、そしてラディが緊迫感のある声で叫ぶのが、ほぼ同時だった。
そしてそのすぐあとに、エレオノーラが「え?」と足を止めて振り返り、そのとき前に出ていた彼女の右足の下がガラリと――崩れ、た。
ラディが咄嗟に彼女の腕を掴んで引き戻し、エレオノーラの目の前の道がぽっかり空けた穴へ彼女の身体が落ちていくのを防ぐ。
「ちょ……何、これ」
「落とし穴か……? 二人とも、よく気づいたな」
マドレーンが穴に近寄ってその深さを確かめるように覗きこみ、僕たちを振り返る。
「ええ、音が違いましたから。崩れた岩のね」
拾い上げた小さな岩をひょいと投げてそのカランという音の響きを聞かせる。
その岩の先に三人の視線が移り、そして崩れた落とし穴へと続く。
「……どーやら、タダじゃ行かせてくれないみてェだな」
「そのようですね」
ラディと視線が合う。切れ長の黒い瞳が何か探るように僕を見て、それからふっと笑った。
「行くか」
「ああ、行こう」
マドレーンが最初に同意の声をあげ、そして落ちかけた驚きから立ち直ったエレオノーラが大きく頷く。
最後に僕が口角をくいと上げて笑んでみせたのを確認すると、ラディはくるりと身を翻して先を進み始めた。
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カツ、と小さな音をさせて進む先の道の目立たないところに傷をつける。
……こうして、来た道にこっそり印をつけておくのは僕の悪い癖ともいう。
もしもこの道を戻ることになった時に迷わないように、だ。
指先の小さな動きで岩が削れる理屈は、それが魔法によるものだから――
「アドレイ? ついてきてるか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
僕の前を歩いていたマドレーンが振り返って確かめる。
このくらいの距離なら、はぐれたとしても壁の岩やや足元を伝ってあとを追うことは可能だ。
現にさっきもこの奥に潜んでいるらしいトーランドの気配を辿ったが、向こうの道には感じられなかった。
ラディの選んだこの道は、確かに人の気配がする。誰かが通った後の気配が残っている。
ただまあ、あの男の場合は勘でしかないようだが。
進みながら、僕は警戒しつつ壁の岩に手をかけていた。
その手から何かの振動が伝わってきたのと、前方のラディが「気をつけろ!」と叫ぶのが、同時だった。
ガラガラガラ、と音が響いて突然右の壁が崩れる。
幸い皆が警戒してたおかげか崩れた岩が少なかったからか、誰かが下敷きになることもなく怪我をすることもなくその罠らしきものを回避できたの、だが。
「びっくりしたわー、なあに今の、何か仕掛けてあったってこと?」
「ってェことは、ここがアタリだって証拠だろ?」
ラディが自慢げに言うのへ、エレオノーラが軽く肩をすくめる。
崩れた岩を避けて先に進もうとした、そのときに。
カラカラと崩れていく岩の音が妙に違って聞こえた。
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