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| タイトル |
奪ワレタノハ唇ダケデスカ?-005 |
今日の気分 | end |
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開いたままだった頁に栞を挟むとロトスはぱたりと本を閉じた。
本当のところは言いたくない頑なな心と折り合いをつけるのはとても難しいことで、きっと認めても認めなくてもどちらにせよ痛い思いをするのだと思った。
認めれば嫌煙家であるだろうロックオンが不快感を抱くだろうし、認めねば強情なやつだと呆れられるのだ。
進退これ谷まる。
「していないのに認められない」
喫煙を駄目だと彼は言ってはいないが内心快くは思っていないのだろう。
そう思えば認めることはできない。
嫌われるくらいならば呆れられる方が幾らか増しだった。
「別に吸ってたって俺はこれぽちも気にしないっつーにお前は何をそんなに片意地張ってんだよ」
「え、気にしないの?」
ぽかりとそれまで不機嫌に引き締められていた表情が一瞬にして弛む。
それにはロトス自身驚いたらしく、慌てて口元を片手で覆って、ロックオンのいない方を向いて顔を背けた。
しまった、と後悔したところで今更遅い。
隣では音にこそなっていなが笑いで身体を揺する男がいるのだから始末に悪い。
「おま、俺のこと、気に、してたんだな」
腹が痛いと笑い堪えるロックオンにロトスは鋭い視線を向けて威嚇したが最早そんなものに何の威力も宿ってはいなかった。
完全敗北である。
「そうよ、してたわよ!ああもう最悪、今日は厄日だわ!」
「俺は吉日だったぞ。存外可愛いとこあるじゃねえか」
伸ばした手を叩き落としたがそのまた別の手に搦めとられ引き寄せられる。
軽いリップ音を発ててロックオンはロトスの唇から己が唇を話した。
「そんなことで嫌いになるくらいなら殴られた時点で別れてるって。まあ程ほどにな」
最早立ち向かう牙まで奪われてしまった。
気恥ずかしさと自己嫌悪にロトスは両手で顔を覆って首を竦めた。
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| タイトル |
水道水と血痕-006 |
今日の気分 | ミハエル・トリニティ |
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「死にたがりも此処までくると病気だな」
そんで以って大迷惑だ。
鳶色の眸を忌忌しげに歪めて掴んだままだったエイルの腕を乱暴に払った。
それから一歩前へ踏み出すと流しっぱなしだった水を止めるべく蛇口を捻る。
一つの音が止むと途端に静寂が押し寄せた。
拘束を解かれてもエイルはその場を動こうとしなかった。
ミハエルが向かい合う鏡にはあえかなエイルの背中が映っている。
「そう思うならさっさと死んじまえ。生きる意志も目的もなくて、お前ちっとも楽しくないだろ」
「……」
「俺は生きるために殺す、生きていたいからだ。じゃあお前は何のために殺すんだよ」
紅玉の眸を捉えることは叶わない。
項垂れて縮こまった背中に向けてミハエルは言葉を投げ掛ける。
心を痛める少女にこれ以上追い討ちをかけたところでどうなろうとも思うがブレーキは利かなかった。
ただアクセルだけがきつく踏み込まれる。
「誰かの死の上に俺らの生は成り立ってんだよ。だから無駄にするのはそいつらへの冒涜だ。仮に俺がお前に殺されたとして、」
俺は一生懸命生きないお前を恨むぞ。
「幾ら苦しんで惨たらしい死に方したって赦さねえ。でも、お前が何が何でも生きてやろうって歯食い縛って生に執着してりゃあ、仕方無いかと思わないこともねえよ」
それこそが贖罪だとミハエルは考える。
平和な世界を見ることと生き抜くことが自分が奪ってきた幾つもの命から託された使命なのだと。
「あーあ、死にたがりのために真面目に語っちまったぜ。うああ、肩凝った」
んじゃあな、とそれまでの険相を一転させ、ミハエルは弛緩した表情で踵を返した。
人間は一朝一夕で変わることのできる生き物ではない。
それでも少しずつでも彼女が変わっていけばいいと思った。
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「・・・あたしは、誰かに哀しんで欲しくない」
だから、なるべく人とは関わらないようにしていたつもりだった。
だが、時間が経つに連れてしっかりと引いたはずの線は薄くなっていく。
自分の方から踏み越えてしまいそうになる。
「元から此処にいるはずのない人間だから、」
「・・・」
「・・・哀しんでもらうほどの、人間でもない」
だから、哀しむ必要なんてない。
「馬鹿か、お前。・・・なら、何であいつらはそんな人間のために怒るんだよ」
誰もお前が思ってるほど、お前に価値がないとは思ってねえよ。
しかしミハエルの言葉にエイルは首を横に振る。
価値など有りはしないと思うのだ。
自分に生きるほどの価値など見出せない。
人を殺すことにおいてのみ特化した人間が、それを為すことしか出来ない人間が、
誰かに哀しんでもらって、自分のために他者を怒るなどという価値があるとは思えない。
「・・・あたしは誰かに大事にされちゃいけないの」
「・・・」
「・・・生きたいなんて、思っちゃだめなの」
何より生きる目的もない。
何かのために生きるなど、そのような高尚は精神は持ち合わせていない。
「・・・苦しんで苦しんで苦しんで、それで死ぬの」
懺悔だ。
そして待ち望む終わりでもある。
どうせ死ぬのであれば、自分は苦しんで死ななければならない。
楽などしてはならないのだと、エイルは思う。
それが自分のせいで命を失った人々に対する懺悔だと決めて。
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2008/06/01(日)
ロックオン・ストラトス
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「まあ、確かにライターの使い道はそれだけじゃあないけどな」
その点においてはロックオンも認める。
他の使い道を自分だってすることはあるし、それを否定するつもりもない。
「けど、それなら香水はどう説明するんだよ」
「だから、気分よ」
「気分ねえ・・・嫌いなものをわざわざつける気分なんかあるのか?」
普通は遠ざけるぐらいするだろ、お前なら。
ロックオンはどこまでも否定しようとするロトスに溜息を吐いた。
別に咎めているわけではないのだから、そこまで否定することもないだろうと思うのだ。
が、ロトスは相変わらず認めようとはしない。
「女心を貴方が解せるとは思えないのだけれど」
そう来たか、とロックオンは息を吐く。
ああ言えばこう言うのがロトスではあるが、そう来るとは思わなかった。
常々そうであるため、そう言われてしまうとロックオンも言い返せない。
「・・・別に俺は喫煙がダメだって言ってるわけじゃないだろ」
「してないのを貴方がしてると決め付けるからでしょう」
「してないって言うくせにやけにムキになるけどな、お前」
そういう風にムキになるってことは、やっぱり喫煙してんだろ。
ロックオンは「いい加減に認めろよ」とすっかりと本から視線を外しているロトスを見て言った。
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| タイトル |
奪ワレタノハ唇ダケデスカ?-003 |
今日の気分 | end |
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「だいたい、」
なんの証拠を以ってそんなこと言うの。
尋ねるというよりは咎めるような風情でロトスはロックオンの眼を見て言った。
早いところこの不都合の芽を摘んでしまいたかった。
同時にこうまで感情的になっている自分をロトスは嫌悪した。
表層にこそのぼっていないが取り繕おうと非喫煙者だということを認めてもらおうと躍起になっているのは否定できない。
今まで通り気儘勝手に振舞えばいいというのに。
自嘲というよりは溜息のような落胆を滲ませて胸中で嘆いた。
「別に確たる証拠はないけどなあ。強いて言えば勘?」
「当て推量で疑うのって失礼だと思わない?」
「疑っちゃいないだろ、程程にしとけよってそれだけだって」
どうだか、と首を竦めてロトスはおどける。
此処まで頑なになる理由が彼に嫌われたくないとか彼に害があってはいけないだとか、そういうことだというのが解っているからどうにも居心地が悪い。
それを言うなら日頃の行いを改めるべきだという冷静な反駁も頭の片隅から聞こえてくるようであった。
抱えた矛盾を殺しきれない。
「お前も強情だなあ。じゃあ俺がそう思った切欠を話してやろう」
「強情じゃない」
「はいはい。まあ一つは地上で会うときとかトレミーに帰ってきてすぐとか、ごく偶に香水つけてるだろ。あれって何なのか最初はわかんなかったんだよ」
「気分よ」
どきりといっそう強く心臓が高鳴った。
「記憶に残るから香水は嫌いって言ってたの誰だっけ。んでまあ、二つ目はお前の地上での住居に矢鱈ライターがあるってこと」
「なんでそんなことまで知ってるのよ!」
「いやあ、この間偶偶小物入れ?みたいなのぶちまけちまってな、そしたら安いライターが大量に出てきて。あれって常に煙草もライターも持ち歩いてないからその度に買って増えちまったってやつだろ?で、まあ総合してそういう結論に」
にやりと笑ったロックオンに負けを悟りながらも未だロトスは挑むような視線を向けて、「ライターの使い道ってそれだけじゃないでしょう」と言った。
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| タイトル |
水道水と血痕-004 |
今日の気分 | ミハエル・トリニティ |
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表情以上に饒舌な眸にミハエルは困惑した。
何にせよ犠牲の上に成り立つ自らの生を疑問視したことはないし、そうしなければ生きていけないのならばそうするまでだと思う。
そのために生まれた存在であり、違えれば自らの存在は赦されない。
「お前は変わらなくても、お前が死んだら哀しむやつはいるだろ」
もし自分が死んだら兄や妹は深い哀しみに暮れることだろう。
単純に生きていたいという生への執着もあるが、それ以外にたった二人の家族の顔を曇らせたくないという願いもミハエルにはあった。
だから自分の命は自分だけのものではないようにも思う。
そういう意味合いのことをミハエルは言うのだがエイルは小馬鹿回しにして言った。
「…馬鹿じゃないの。あたしが死んだあとのことなんてあたしが知るわけないでしょ」
「そうだけど、じゃあそういうこと想像してお前は何とも思わないのかよ」
「…別に。だって誰も哀しまないと思うから」
「…!」
身体中を電撃が駆け巡るようだった。
「お前バッカじゃねえのか!この間俺に文句言いに来たやつらはお前のこと何とも思ってないのかよ。死んだって構わないやつのために態態あんなことするか、あいつら本気で怒ってたぞ。死にたいってことの言い分は別にしても、誰も哀しまないってそれはあいつらに対してめちゃくちゃ失礼なことだからな!」
捲くし立てるようにして全てを吐き出しきったミハエルの肩は僅かに上下している。
血色の良い頬は感情の昂ぶりによって更に赤みを増していた。
ミハエルの剣幕に驚いたエイルは硬直して解るか解らないくらいの差でまなこを見開く。
彼女が驚いていることに気がついたミハエルは少少据わりが悪くなり、
「悪ぃ…かっとなって怒鳴っちまった。でも、俺はお前のそういう考えは納得できないから」
「……」
「お前の言うことも解らないでもねえよ。俺たちはマイスターとして人工的に生み出されたデザインベイビーだから、お前と似たようなもんだし。ただ少し考え方変えた方がいいんじゃねえのか、お前はよくても周りが可哀想だ」
そう言ってミハエルは視線を床へと這わせた。
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「・・・あなたに関係ないでしょ」
放っておいて、と。
エイルはそう言いつつ、口元を手の甲で拭った。
相変わらず離されない手を鬱陶しく思いつつ、紅の瞳は歪んでいた。
「吐血してる奴を放っておけるかよ」
「・・・迷惑だって言ってるの。離して」
「だったら納得出来る理由を言えよ。ただの死にたがりか?」
「・・・死にたがりじゃ悪いの?」
そう言うエイルの顔に表情はなかった。
ただ瞳だけが、哀しみや怒りや憎しみが綯い交ぜとなって微かに揺らぐ。
生まれたことを哀しみ、作られたことを怒り、そして憎しんでいる。
そんな紅の瞳だった。
「・・・死にたがってるのが、そんなに悪いの」
「おい、」
「・・・生まれたくて生まれて来たわけじゃないのに」
人を殺すことでしか生きられないのなら、そこまでして生きたくはない。
目的もなければ、自分の未来に希望もない。
願うことはただ楽になるということだけだ。
放っておけば尽きる命であるのなら、放っておけば良い。
それに苦しみが付きまとうというのなら、受け入れれば良い。
今まで自分が奪った命の報いだというのなら、甘んじて受け入れる。
それだけだ。
「・・・薬に縋って生き延びたって、あたしは何も変わらない」
どうせ人を殺すために生きるのなら、自分は早々に終わった方が良い。
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2008/05/30(金)
ロックオン・ストラトス
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「己惚れてない」
「してるでしょ。どうして貴方のことなんか気にしなきゃならないのよ」
わたしが仮に喫煙したとして、それで貴方がどうなってもわたしは構わないもの。
ロトスはそう言いつつ、ページを捲った。
その様子にロックオンは溜息を吐く。
そこまで隠さなくても良いと思う。
自分が気付いて、そう言っているのだから遠慮する必要もないのだ。
ロトスにそうまで言われると、やはり全く凹まないというわけではないのだが。
「それにわたしが気にするとしたらせっちゃんとあっちゃんとてぃえりんとえっちゃんたちだけよ」
一応複数形にはなっているが、そこに自分が含まれていないのは明らかだった。
しかしここまで頑ななところを見ると、無理に肯定させる気も起きない。
元よりそうするつもりもなかったのだが。
「まあ、別に良いけどな」
「・・・」
「お前が肯定したくないのなら、それで」
「肯定するも何も喫煙そのものをしていないもの」
変な言い掛かりは止めてくれるかしら、と。
ロトスはそう言いつつ、視線を文字からロックオンへとやった。
不機嫌な様子のその黒い瞳にロックオンは肩を竦めた。
何をもって、そこまで否定するのかがやはり分からなかった。
自分は何も喫煙を咎めているわけではないのに。
ロックオンは「はいはい」と言いつつ、どうしたものかと考えた。
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| タイトル |
奪ワレタノハ唇ダケデスカ?-001 |
今日の気分 | end |
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はらりはらりと紙の擦れる乾いた音がする。
互いに読書を好むロトスとロックオンが展望室で隣り合って本を読むことは少なくなかった。
文字の羅列から顔をあげたロックオンの眼には昏い宇宙空間が飛び込む。
その光量に乏しい様は隣の人物を想起させる。
「なあ、」
視線は名前も知らない星の瞬きに宛がったまま、彼はロトスに声を掛けた。
本から顔をあげることはなく文字を追いながらロトスは「なあに」と返事をする。
読書と会話を並行して行えるという彼女にロックオンがどちらかを取りやめろということは今ではなくなった。
当初は気になって度々指摘したが「ちゃんと聴いてるわ」と決まって返って来る言葉に嫌気が差したのと、実際にちゃんと聴いている――それは一つの粗も逃さないくらいに――から何も言えなくなったのとの二つの理由でこれが普通になっている。
「煙草、程ほどにしとけよ」
「はあ?なにそれ」
意味わからないのだけど、と視線は下げたままロトスは言った。
感情を表に出さないのは熟れたもので、内心ロックオンの発言にどきりとしつつも彼女は何事もないかのように振舞う。
そもそも何故彼が知っているのだろう。
ロックオンの言葉をするりするりと躱しながら頭の片隅でそんな思考を巡らせた。
ロトスはプトレマイオス内では絶対に喫煙しないし、煙草そのものをこの艦に持ち込んでいない。
ロックオンを含む誰にも喫煙者であることを話していないから漏れようもない。
そのうえ自分が気付かれることのないよう努めて慎重に振舞っていたのだから発覚するはずもないという自負もあった。
「別に隠さなくてもいいんだぞ?」
「隠してないわよ。吸いたきゃ勝手に吸うに決まってるでしょう」
「そう言いつつ、俺とか刹那に遠慮してたんじゃないのか?刹那の身長伸びなかったら困るもんな」
歯を見せて笑うロックオン。
その笑い声を聞きながらなんのつもりだろうかとロトスは彼を訝った。
「己惚れないでちょうだい」
せっちゃんはまだしも貴方に遠慮はしないわ、とぴしゃりと突っ撥ねると、顔をあげてロックオンを一瞥してまた読書を再開した。
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