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覗き込めば明らかに顔色の悪い深継にため息が零れる。蒼白も良いところ、本調子で無いのは見て分かる。
引き留められながらも、弱々しい抵抗を止めない深継を掴む力を強めながら視線を合わせた。
深継の状態…俺が原因なのは明らかだろう。その現実は、昏い淀のように心に埋まり、重い。
俺を騎士吸血鬼に、助けたりなどしなければ良かったのではないか、と。
最早考えても仕方の無いことだとは知っているのに、そう思ってしまう。
「……怪我は無いんだよな」
「ありません」
口調だけは明朗だと、それだけのことなのに僅かな安堵が沸き上がるのが不思議だった。
多分、俺が恐れているのは、死の淵を超えて、救われない際限ない深淵に堕ちてしまうこと。
それが自分であれ…例えば、先程出会ったばかりの、深継のことだとしても、恐いと思う。
しかし、自分が考えている以上に、深継の死についての感情が強いことに少し疑念を抱く。
恩人だから…そうなのだろうが、その他に、未だ何か、あるのではないだろうか。
そんなはずはないのに、深継とは初対面のはずなのに、理性はそう告げるが、
もっと深い部分では、何かを訴えかける自分自身への戸惑いを…押し隠した。
「吸血鬼の力、ってのは、分かった…と思う」
紅の泥濘に沈んだ喪失吸血鬼に顔を顰めながら、しかし目を逸らしはしなかった。
一瞬だった、と思う。でも見えた。
敵がどういう動作で、どこに力を込めて飛びかかって、深継がどう屠ったのかさえも。
刹那以下の時間の動作の、衝突の流れを見ることが出来る筈が無い。…その可能が、変質なのか。
変質の認識は時を経るごとに薄れるどころか強い実感を伴って自らに纏わりつく。
受け入れる他、無いのだろう。それが自分自身のことである限り、拒絶の先には死しかない。
「力の使い方は…未だですね」
「そうだけどな、別にお前が無理しなくても良いだろ…死なれたら、困る」
自分勝手な言い方で、全てが気休めなのは分かっている。
それでも裏も表もない、素直な気持ちだったのは確かだった。
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| タイトル |
14-2#拒絶にも勝る義務 |
今日の気分 | 2/2 |
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だらしなく口から流れる血に、穿った心臓からも血が大量に流れ出し、
いつしか私の足を染め上げるかの如く伝い始める。
「う…ぐえッ…」
途端、激しい嘔吐感に口許を思わず押さえた。
左足を伝う血の感触に怖気が走り、急いで足を喪失吸血鬼から引き抜く。
支えをなくした喪失吸血鬼は重力に抵抗することなくどしゃりと廊下に崩れ落ちた。
血だまりが出来始め、血のにおいが鼻腔を突き始めた。
先程は血の海に居ても平気だった。なので大丈夫なのだと思ったが、やはり駄目なのか。
−−−血が、駄目なのか。
「お、おい! 大丈夫かよ?」
私の体調がいよいよ悪くなったと思ってくれたのだろうか、
心配そうな表情で顔を覗きこみながら栂海さんが私の体を支えてくれた。
体調が悪いわけではない。理由はもっと別、精神的なものだ。
けれどプライドからなのか、絶対に話すものかと思う自分が居た。
「ええ、平気です」
「平気なわけあるか! 顔色が酷くなってる、やっぱり休んだ方が良い」
心配を掛けさせてはいけない。不安にさせてはいけない。
彼を生かした私には、彼を護る義務がある。彼を二度も死なせてはいけない。
そのような義務感めいた強い思いが私を奮い立たせる。
「申し訳ありません、何もありませんよ…。行きましょうか」
「深継!」
強引に栂海さんを引き剥がす。
彼の非難にも似た制止の声を振り切り、更に歩みを進める。
けれども途中で腕を掴まれ、結局抵抗も空しく足止めさせられた。 |
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| タイトル |
14-1#拒絶にも勝る義務 |
今日の気分 | 1/2 |
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周囲の空気が張り詰めていくのが肌で感じられた。
じりじりと距離が詰められ、その度に緊張と警戒が高まる。
それは栂海さんも同様のようで、表情は硬くいつしか身構えていた。
まだ詳しい説明が出来ていない今、彼の状態は良くない傾向かも知れない。
ここで力が暴走されてしまっては困る。
身体能力は彼の方が上で、ましてや男なのだ。女の私が力技で勝てるはずもなく、
暴走してしまったが最後、止められる術は死以外にないのかもしれない。
そのような事態は絶対に避けなければならない。
一歩踏み出す。と、栂海さんも倣うようにして一歩を踏み出そうとしたのを手で制する。
「ここは私が出ます。あなたには少なくとも吸血鬼が如何なる存在なのかを
きちんと理解してもらわねばなりません。
それを踏まえた上であなたの力がそれ以上だということも…、理解してもらいたい」
また一歩踏み出す。同時に、喪失吸血鬼もこちらに駆け出す。
勝負は一瞬。
全力で撃退し力を誇示しなければならない。
全力でなかったら意味がないのだ、力を見せ付けるのだから。そして吸血鬼の力が
如何なるものなのか、理解してもらうためには。
左足に力を収束させ、迎撃態勢に入る。
喪失吸血鬼との距離は一メートルもないのかもしれない、いつしか鈍色の牙が振り上げられる。
眼前に一閃が発生し、
「深継!」
「ギャアウ!」
短い悲鳴が重なり、ついで壁に激突する激しい音が耳元に届く。
私の左足によって壁に磔にされた喪失吸血鬼は少しの抵抗も見せずに絶命した。 |
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階段を降りると、既に非難は済んでいるのか、左右に長く伸びた廊下は静寂に包まれていた。
この静寂に居心地の悪さを感じるのは、静寂の先に異物というに相応しいものの息遣いを感じるから。
息を潜めたようなそれに、既に見られているという確信はあった。
急に拡がった感覚に戸惑わないでもなかったが、それすらも深継の話を裏付けているように思える。
「体調悪いなら休んでいても良いんじゃないか?」
振り返りながら深継に訊ねるが、大丈夫と告げて首を横に振るだけだった。
万全ではないのは見て取れるが、不老不死ならば簡単には死なないのかもしれない。
或いは、血でも吸えば回復するのかもしれないが、それを発言する状況ではなかった。
「皆は体育館か」
「恐らく。その方が安心です」
何故と聞き返す前に、深継は俺の横を抜けて更に階下へと歩き出した。
ひとつだけ、小さくため息を吐くと、その背中を追いかける。
顔色が悪い割には、その足取りは先程に較べれば悪く無い。
「喪失吸血鬼って元は人間なんだろ。助けたりは出来ないのか?」
「助ける方法を少なくても私は知りません。多分覆せませんよ……死、というものは」
「そう、だな」
死を迎えて、それでも尚死ねないというのはどういうものなのだろう。
俺を殺しかけたあの喪失吸血鬼の目を見る限りは、もうそういう理性は失われていたように思える。
それが、あらゆるものを喪失されられた人間の最後の足掻きだとするなら、哀れな存在だと思った。
「……深継、」
「はい」
会話としても成立しないほどの短い遣り取りの中、それを遮り自らの存在を主張するように、ガリ、と金属を爪で掻く音が耳に障る。
顔を向ければ、廊下の先でこちらを見ているようで見ていない白の無い紅の瞳と目が合った。
犬に似た、四つん這いと言うに相応しいその小柄な体躯は奇妙に仰け反り、また肌だけが人の色をしていて、余計に生理的嫌悪感を煽る。
……あれが、喪失吸血鬼か。
確かに受ける印象は屋上で出会ったものと同種のものだ。
それでも真正面から見つめ合ったのは言うまでも無く初めてだったから、ぞくりと鳥肌が立つ。
それなのに恐怖でも緊張も湧き上がることなく、廊下の冷たい空気が感情を冷やしていくように思えた。
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「なあ、深継、どうすれば良いんだ?どうすればこの闇は晴れる」
「今、この空間内には真祖吸血鬼がいます。この闇は真祖の力」
言われて、あの黒い球体のことを思い出した。物理法則を無視して中空に浮かび、弾けた球体。
あれが真祖の力に拠るものなら、その力の主を倒せば闇は晴れるということだろうか。
そう思いながら深継を見遣ると、少し考える風にぽつりと言葉を漏らす。
「そう簡単には行かないかもしれません」
「なんで」
先ず、倒して消える類の力なのかは分からないということ。ある意味でこの空間の創造主である真祖を倒した場合に、この空間が本当に『元』に戻るかは分からないこと。
それから敵が真祖である以上、喪失吸血鬼の他に真祖を護る騎士吸血鬼がいるかもしれないと。
つらつらと直面している問題を述べていく深継に、しかし深継も思っているであろうことを言ってみる。
「どちらにせよ、会ってみないと話にならないだろ。もしかしたら平和的に解決してくれるかもしれない」
「それは……本気で言っているんで?」
「そんなわけないだろ。一発殴ったぐらいじゃ許せそうにもない」
尤も、ここまでやるような相手が素直に殴らせてくれる筈もないのは容易に考え得るのだが。
先ずはこの闇の元凶を探すことが先決だろう。それに、聞きたいことも、ある。
「何処にいるか分かるか?」
「……私に騎士が出来た以上、敵も身辺を固めようとするはずです」
「ということは、喪失やら……騎士やらとぶつかっていけば自然に辿り着くのか」
喪失吸血鬼が生徒や教師を襲うなら、もし何か出来るなら何とかしておきたいとも思う。
全て、深継の話が本当なら……というのが前提だが。
自分の思考に思わず苦笑した。何を今更考えているのだろう。
「信じるよ、深継。……吸血鬼も、お前の話も」
今信じられるのは深継だけだ。だから深継の言うことは、少なくとも今は無条件で信じる。
半ば自分に言い聞かせるようにしながらではあったが、深継の目を真っ直ぐ見ながら頷いた。
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吸血鬼の話は俄かには信じ難いものだった。
自らを真祖の吸血鬼だと名乗った深継も、外見だけなら全く普通の女子生徒でしかない。
しかし深継が俺に嘘を吐く理由はなく、実際に俺はあの化け物に腹を貫かれて瀕死に至り、差し出された深継の血を啜っている。
もし同じ話を今朝聞いたならば夢でも見たのかと苦笑せざるを得ないような内容を、受け容れなければ現実についていけないという事実が目の前にあった。
「……正直、信じられねぇよ。いきなりにも程がある」
ため息を吐きながら肩を竦めた。
半吸血鬼、半人間の騎士吸血鬼に成ってしまったのだと深継は言うが、変化という変化は無い。
抑え切れなかった血への欲求のみが裏付けており、しかしそれは同時に決定的でもあった。
吸血鬼、その名が示すように血が欲しくて仕方が無かった。言葉にすれば、明確過ぎる。
「でも、嘘じゃないんだよな」
「はい」
即答に近い深継の頷きに、葛藤のあった心が消えた気がした。悩んでいる余裕は与えられていない。
俺は深継のお陰で生きていて、学校は未だ危ない状況のままなのだろうというのは判ったから。
正直、吸血鬼である深継を怖いと思っていない訳ではない。
喪失吸血鬼を殺したのは深継なのだろうし、話がそうなら深継だって喪失吸血鬼を創り出せる。
それでも、放っておいても構わなかっただろう俺を救ってくれたから、信じたい気持ちが強い。
此処が絶望の淵から浮き上がったときには、何故と聞いてみても構わないだろうか。
血分けというのは、口にするほど容易でないのは深継の顔色を見ていれば分かる。
深継の体には多分立っているだけで限界程度の血液しか残されていないのだろう。
どうしてそうまでして、見ず知らずの俺を助けてくれたのか、と。
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| タイトル |
12-3#残酷なのは現実か、それとも私か |
今日の気分 | 3/3 |
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そう、この部分が真祖吸血鬼と騎士吸血鬼との絶対的な違いに他ならない。
真祖吸血鬼はそれこそ小説や漫画にあるような魔術的な能力を先天的に有しており、
その能力は個体によって様々かつ差がある。血筋によって能力が定まっているわけでもなく、
現に私の父と私の能力とではまるで性能も力量も違うのだ。
しかし、騎士吸血鬼にはこのような先天的な能力は有しておらず、代わりに武器が存在し、
真祖吸血鬼を凌駕する程の身体能力を得ている。
その身体能力は恐るべきもので、治癒能力も侮れない程に尋常ではない。
「なら、俺にも専用の武器があるということなのか?」
「そうなります。
その武器はあなたがあなた自身の手で闇から引き摺り出すことによって、
初めてその姿を顕現させることが出来るもので、あなたのために存在しているものです」
「俺の、ため…」
自身の両の手を見つめ、呆然と呟く栂海さん。
まるで空想や幻想、絵空事のような話に、けれども確かな実感を伴っている体に、
無理矢理にでも現実を理解しようと必死に違いない。
硬い表情の栂海さんに、それでも私は掛ける言葉が見つけられなかった。
唐突に奪われた日常に一体何を思い、そうして訪れた非日常に何を思うのだろう。 |
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| タイトル |
12-2#残酷なのは現実か、それとも私か |
今日の気分 | 2/3 |
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その表情には真剣さが宿っており、徐々に冷静さと判断力を取り戻しているようであった。
私は小さく頷くと先を続ける。
「では、順々に説明していきます。疑問に思ったことは、その都度遠慮なく訊いて下さい。
あなたの認識通り、確かにあなたは喪失吸血鬼によって腹部を刺され、助かる見込みのない程の重傷を負いました。
現にあなたの命は無常にも消え散りそうでした。
そこで私があなたの命を繋ぐため、血分けを行いました」
「その血分けがあったから、俺はこうしてここに居られるのか?」
「そうなります。
血分けというのはその言葉通りで、私の血を他人に分け与える行為のことを指します。
もっと広義に言いますと、吸血鬼の血を人間に分け与えるということです。
血分けを行われたものは例外なく、騎士吸血鬼へと新たに生まれ変わります」
「吸血鬼…って言うからには、やっぱり…」
栂海さんの先の続かぬ言葉に、その考えを理解していた私はこくりと頷いて肯定した。
瞬時に口を開いて何かを言おうとするものの、栂海さんからは何の言葉も出なかった。
やはり、栂海さんも例外なく…騎士吸血鬼へと生まれ変わったのだ。
その事実は曲げようがなく、そしてそのことを一番実感しているのは他でもない栂海さん本人である。
先程の吸血行為を生々しく思い出しでもしたのか、顔を顰めて喉元に手を当てている栂海さんの顔からは
徐々に血の気が引いていっているようであった。
「騎士吸血鬼というのは吸血鬼という点では私たち真祖吸血鬼と何ら変わりありませんが、
ですがこれには語弊があります。正確には半吸血鬼です」
「半吸血鬼…? じゃ、じゃあ、訊くが半吸血鬼ということは、半分は人間のままってことなのか?」
「はい。真祖と騎士には大きな相違点が幾つかあります。
一つ目は、栂海さんの仰られた通り、真祖吸血鬼が完全なる吸血鬼であるのに対し、
騎士吸血鬼は吸血鬼でありながらにして人間である、ということです。
二つ目に、真祖は不老不死、騎士は半不老不死であること。
このことについてはまた後ほどご説明させて頂きます。
三つ目は、真祖を凌駕する程の身体能力と専用の武器があるということです」
「身体能力と…武器…?」 |
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| タイトル |
12-1#残酷なのは現実か、それとも私か |
今日の気分 | 1/3 |
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無我夢中でひとしきり血を啜っていた栂海さんは身体が満足したのか、すっと手から顔を離した。
その顔には満足感と驚きと戸惑いと、それから疑念とが綯い交ぜになった例え難い表情が湛えられており、
その薄く開いた口内からは啜り損ねた血が細い筋を作って顎へと伝い、雨と混じって滴り落ちる。
「な、にが…。血分けって、一体…」
「…一先ず、ここから離れましょうか。校内に居た方が多少は危険が減りますし、
何より落ち着けるでしょうから。それに、このままここに居ては風邪を引いてしまいますから」
困惑しきった栂海さんは冷静さと判断力が未だ戻っていないのか、ただ私に促されるままに屋上を後にする。
重度の貧血にあるものの、体を奮い立たせて私もその後に続く。
途中、視界の端に捉えた肉塊の処分をどうしようかと考え、
先程と同じように雨のワイヤーで更に引き裂いて微細な肉片にさせ、最終的な処分は自然に任せることにした。
内側から鍵を掛けた資料室は、外の天候も相俟って今はカーテンを締めているためかほの暗い。
明かりは敵に見付かる可能性が高まるため、意図的に付けていない。
常備されていた丸椅子にどちらともなく腰掛け、一息をつく。
「何からお話しましょうか。そうですね…、何から知りたいでしょうか?」
「血分けっていうのは、一体何だ? 騎士吸血鬼っていうのもだ。
一体俺はどうなった? 確かに腹をあの化け物に…」
そこまで言い、栂海さんは思い出したことによる恐怖心から途端表情を硬くし、口を噤む。
私は努めて彼を落ち着かせようとゆったりとした口調で、一つ一つ確かめるように説明を始める。
「まず、前提として…私は人間ではありません。
人間の形を取った、それこそ先程のあなたが化け物と称した喪失吸血鬼と何ら変わりのない
紛う方なき化け物…真祖吸血鬼という存在です」
「真祖吸血鬼…?」
「はい。一般にあなた達の言う吸血鬼とは、私たちのことを指します。
ただし、小説や漫画のように光が苦手だったり、大蒜が苦手だったりということはありません。
急所を突かれたら確実に死に至りますが、だとしても不死身の存在です。
……ここまでで何か質問はございますか?」
栂海さんは首を振ってないことを示すと、そのまま黙って先を促してきた。 |
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| タイトル |
11-3#霞と共に訪れた熱 |
今日の気分 | 3/3 |
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「あれは喪失吸血鬼と言う類の生き物」
「吸血鬼……?」
「吸血鬼に血を吸われ、死に至った者が辿る末路です」
吸血鬼……という言葉が、頭に浸透してくるのに時間が掛かる。
吸血鬼とは、やはりあの、小説などによく出てくる奴のことだろうか。
血を吸って、鏡に映らなくて、ニンニクと十字架と銀と日光が嫌いな。
怪訝を通り越して深継が謀っているのではないかと思ったが、敢えて嘘を吐く理由も無い。
そう思っているのに、口をついて出てきたのは、隠せない怪訝さを滲み出した声だった。
「冗談だろ?」
「栂海さんもご覧になったでしょう?」
それには同意する。
あの化け物の尋常じゃない雰囲気も、死と隣り合わせの状況も、今を以って容易に思い出すことが出来る。それほどまでに異常な状況だった。まるで学校そのものが異界に落とされてしまったような。
あれは夢では無かったのだろうか。……あの痛みを超えた熱さも、夢や幻では無かったのだろうか。
「そういえば、怪我……してないよな」
腹部の傷は消えていたが、制服には雨でも流れない血が滲みを作っている。
指先で撫でれば、先程の違和感……身体の奥の熱は此処を源にして広がっているような気がした。
「あなたも……、もう人ではありませんから」
「どういう意味だよ」
聞き返すと同時に、深継が手のひらにもう一方の手を押し当てると、赤い筋が奔った。
深継が自ら傷つけたらしい手のひらを、その傷を眼前に差し出される。雨に当たり血は実際よりも出ているように見え、しかし止めろと諫める声は喉元で止まった。
「……ぅ、あ……!」
赤い、赤い、流れ出るその命の証に、どくんと鼓動が跳ねた。
体内の熱が、突然に喉まで昇ってくるような感覚に頭がぼやけて、図らずに喘ぐような呼吸になる。
どうしてと思う前に深継の血を啜りたい衝動に駆られて、それに驚いて屋上の床を爪で掻いた。
「血分けにより、あなたを騎士吸血鬼にしました。命を、繋ぐために」
深継の、故意に感情を抑えこんだような声が遠く聞こえ、気付いたときには血に唇を寄せていた。
啜っているのは間違いなく血なのに、その味に脳髄が痺れるような甘さと濃厚な香りを感じる。
深継が痛みの為か小さく声を漏らすのに、それでも深継の手を離すことが出来なかった。
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