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「本当に…?」
「僕が嘘を言うと思ってる訳?」
「そうは思ってないですけど」
雲雀先輩は優しいから、助けてくれる為に。っても思えるから。と蒼は小さく言う。
その言葉に、雲雀は呆れた様に笑う。
嘘は言わないと言ってるし、何より自分を優しいと称するのは四ノ宮くらいだ。と。
その呆れた顔も可笑しそうに笑った顔も、
わかっていた答えとはいえ、やはり一様に打ちのめされたセリたちからは見えていなかった。
寧ろ、見えていなくて良かったと言える。
彼女たちからすれば、見た事ある雲雀の笑顔といえば、
獲物を見つけた時の楽しそうな笑みか他人を嘲笑する笑みでしかなかったから。
「えっと、そういう事らしいんですけど、ファンクラブ入らなくていいですか?」
ついでに、叩いた事も謝って欲しいんですけど。と蒼はセリに視線を向ける。
そこで漸く、セリたちは我に返った。
そして、「雲雀様が迷惑ではないと仰るなら、文句は言えませんわ」と悔しそうに言うと、
「失礼致します」と雲雀に頭を下げて、逃げるように屋上を出て行った。
屋上には、蒼と雲雀だけが残され、蒼もそのままかくんと地面に座り込んだ。
「四ノ宮?」
「何か、急に力が抜けちゃって」
多数の見知らぬ上級生からの突然の呼び出しに、無意識に緊張していたらしい。
それどころか張り詰めていた緊張が切れたせいで頬の痛みは急に鋭くなった気がするし、
今更ながらに怖かったと身体が震え始める。
蒼は、それを誤魔化す様に「ありがとうございました」と笑みを浮かべた。
「何が」
「迷惑じゃないって言ってくれて嬉しかったからです」
それに、あの人に対してみたいに嫌いって言われなかったし。と蒼は内心付け足す。
雲雀が自分を好きになってくれるとは思っていない。
だからこそ、少しでも仲良くなれれば幸せだし、嫌われていないだけで十分だった。
迷惑だと言われていたら、もう挨拶すらできない訳だし。
「それに、雲雀先輩が来てくれて、結果的に助かりましたから」
「もっと早く助けろの間違いじゃなくて?」
雲雀の言葉に、蒼は首を傾げる。
未だに雲雀が最初から居た事には気付いていないらしい。
それを指摘しようとして、雲雀は震えている蒼に眉を寄せた。
強気に言い返していて、平気そうに見えていたからだが。
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「では、約束通り、これは来て下さったお礼という事で」
骸はそう言うと、綺麗に包装され、手渡されたばかりの紙袋を由良に持たせた。
その中には、由良が気に入ったが高くて手が出せなかったワンピースが入っている。
決して安くはない上に、彼氏以外の男。
それも、対して親しくないどころか嫌いに分類される相手からのプレゼントに、由良は眉を寄せた。
「これ受け取れない」
「何故です?」
「なんでって、」
「別に深い意味はありませんし、単なる貢物くらいに思えばいいだけでしょう?」
後腐れない相手からの。とわざわざ付け加える骸に、由良は顔を顰めた。
そして、白蘭を選んだ理由を「後腐れがない」と言った事を僅かに後悔した。
そう言えば、骸もあっさり引き下がると思ったし、
こんな風にその理由を利用されるとも思っていなかったのだ。
「どうしてもいらないというなら、捨てて下さっても構いませんよ」
「え、」
「それは藤崎さんの物ですから、どうするかはお任せします」
誰かにあげるなり、オークションで売るなり、ご自由に。と骸はあっさりと言う。
そう言えば由良が受け取ると思っているからわざと、ではなく、本心で思っているのだ。
いつもの様にからかわれている訳ではなく本気で言っているとわかる為、
由良も困ったような顔をした。
ここまで言うくらいだから返却しても受け取らないだろうし、
けれどやはり、素直にこれを受け取るのも抵抗あるのだ。
いくらお礼だと言われても。
そもそも、今日のこのデート自体お礼なのだから、
来た事にお礼を返されるという時点で変な話だと思わなくもない。
―自分の態度のせいとは分かっているが。
「僕が勝手にプレゼントした物ですから、藤崎さんも勝手にして下さい」
「……」
「だからといって、僕にプレゼントするのはやめて下さいね。女装趣味はありませんから」
骸はにっこりと笑うと、「上映に遅れますから、少し急ぎましょうか」と歩くペースをあげた。
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「ちょ、離してよ!」
「嫌ですよ。また飛び出されては敵いませんから」
骸はそう言ったまま、手を離す気配はない。
振り解こうとするのだが、存外強い力で由良では振り解けなかった。
眉を寄せてあからさまに嫌そうな顔をする由良に、骸は苦笑を浮かべた。
「そこまで嫌がられるとは傷付きますよ、僕でも」
「だって嫌なんだから仕方ないじゃない」
「彼に悪い、とか思ってるんですか?」
わざわざ聞くことでもないだろう、と。
由良は眉を寄せ、「ところであとどれぐらい時間があるの」と話を変えた。
延々とそのような話をしているつもりはないのだ。
骸は苦笑を浮かべながら腕時計を見やる。
「そうですね、あと1時間ほどです。チケットは先に買っておきましたから」
「・・・ありがと」
「いいえ。まだ時間もありますし服でも見ますか?来て下さった御礼にプレゼントしますよ」
「え、良いよ、」
そこまでしてもらわなくても、と由良は困惑気味に首を横に振った。
が、骸は「遠慮しなくて良いですよ」と笑みを浮かべると、半ば強引に店に引っ張り込んだ。
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「ふーん、・・・まあ、それが一番分かりやすいだろうね」
雲雀は蒼の言葉に面白そうに笑った。
まさかこのようなことを言い出すとも思わなかったのだ。
そういう意味では、蒼は自分の予想をいつも容易く裏切ってくれている。
そういう点でも雲雀は蒼を気に入っていたのだ。
「何度も言うのは面倒だし、一度しか言うつもりもないからちゃんと聞いておいてね」
そう言って雲雀はセリたちの方へと視線を向けた。
その態度に、これから言うことを口にされなくとも、セリたちからしてみれば答えは分かったも当然だった。
聞きたくない、そう確かに思うのに――もしかしたら、と思ってしまうのだ。
「勿論ですわ。雲雀様のお言葉、一言一句足りとも聞き逃すことは致しませんわ」
「そう。・・・君のそういう従順なところは嫌いではないけどね」
君という人間は嫌いだけれど。
雲雀がそう付け足すと、セリの瞳は目に見えて揺れた。
しかしそのようなものには興味はないため、雲雀はすぐに視線を蒼へと向ける。
「四ノ宮」
「は、はい!」
「僕は迷惑だとは思ってないよ、君のこと」
「え、」
まさかあっさりとそう言われるとは思わなかったのだろう。
蒼は驚いたように目を見開いた。
自分で言い出したのに、そこまで驚くことだろうかと雲雀は可笑しそうに微かに笑った。
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「べ、別に、いじめてる訳ではありませんわ!」
先程までとは違い、明らかに震えつつも、セリは言い返す。
必死で口を開くのは、単に雲雀に嫌われたくない為だ。
「へぇ。いじめられてたんじゃないの、四ノ宮」
「へ? 私に聞かれてもよくわかんないです」
一部始終を目撃していた為、聞くまでもない事だ。
しかし、からかい半分に言えば、急に話を振られた蒼はきょとんとした様子で雲雀を見た。
そして、自分の頬に雲雀の視線がある事に気付き、慌てて髪をかけ、手を当てて隠した。
遠慮なく叩かれた頬は赤く腫れ、口の端が僅かに切れていた。
肌が白いせいか、余計に痛々しい。
「まぁいいけど。僕の前で群れた挙句、風紀乱すなら、女でも容赦しないよ」
「勘違いしないで下さいませ、雲雀様」
「勘違い?」
「わたしたちは、雲雀様に快適なスクールライフを送って頂きたいのです。
その為に、わたくしたちの定めた規律を破った彼女に注意していただけですわ」
必死に言い募るセリに、雲雀は僅かに驚いた。
てっきり自分に見つかった時点で逃げると思ったからだ。
とはいえ、セリの言い分は独善的であり不愉快でしかなかったが。
「僕、君たちにそんな事頼んでないんだけど」
「で、ですが!」
「四ノ宮の言い分じゃないけど、僕の名前語っていいのは、僕と僕が命令した人間だけだ」
知らない人間が僕の名前を勝手に使うのには慣れてるけどね。と雲雀は言い捨てる。
その事にセリは、悔しそうでいて悲しそうな顔をした。
やはり、自分が文句を言っていた蒼は名前と顔を覚えられていたのに、
自分は知らない人間扱いされたからなのだが。
「えっと、雲雀先輩。ちょっと宜しいですか?」
「何、四ノ宮」
「いえ、こちらの先輩方は私が雲雀先輩の迷惑だと仰ったので、ここで本人に聞けば早いかと思いまして」
雲雀先輩の言葉なら、この場にいる全員が納得するでしょうし。と蒼は言う。
自信がある様な口調だが、その瞳は酷く不安に揺れている。
先程はセリの言い分にキレて、強気で返したが、やはり内心は気になって怖いのだ。
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「デートで女性にお金を払わせるつもりはありませんよ」
そう言いつつ、骸は苦笑を浮かべた。
「僕にプレゼントされるのが嫌という理由ではないんですね」と。
由良は骸の指摘に顔を顰める。
そんなつもりではなかったし、そんな風にとられるとは考えていなかったのだ。
「揚げ足取らないでよ」
「別に僕は、素直な感想を述べただけですが。そう言い返す方が、余計怪しいですよね」
「……」
「実は、デートは満更ではないとか?」
勉強を教えていた時は、途中に逃亡したりしていましたし。と骸は笑う。
あれとて、一応は“自分が由良に赤点を免れさせる為に勉強を教える”という約束のようなものだった。
それを自分がいない隙に脱走したのは約束を破った事にならないのか。
そう暗に言う骸に、由良は眉を寄せた。
「そんな事言うなら、帰る」
「約束は守るとつい先程言ったばかりなのに?」
「そっちが怒らせる様な事ばかり言うんじゃない!」
「事実を言ってるだけだ… っと、危ないですよ」
骸を睨んでいた由良は、目の前の信号が赤になったのに気付かず、車道に出ようとする。
骸が腕を掴んで慌てて引き止めると、由良は気まずそうに腕を払った。
赤信号に気付かなかった事への照れと、骸に掴まれた事への動揺だ。
顔を俯ける由良に骸は苦笑するも、すぐに何かを企んだ様な顔をする。
そして、青信号に変わったのに気付かずに居る由良に、
「ほら、青になりましたよ」と立ち止まったままの由良が悪いんだといった様子で手を引いた。
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「おや、ちゃんと来てくれたんですね」
約束の時間の30分ほど前。
骸が先に着いていたのだが、由良も約束の時間よりも大分早く着いた。
意外そうな顔をする骸に「何よ」と由良は眉を寄せた。
「あれだけ僕を嫌っていたわけですから、ドタキャンされるなり来ないなりされると思っていましたから」
「一度した約束は守るわよ」
「良い心掛けですね」
不本意そうに言う由良に骸は笑みを浮かべながらも、時間を確認する。
ちょうど由良が見たいと言っていた映画の上映時間まではまだ時間がある。
どこかで時間を潰さなければならないのだ。
「まだ時間がありますからね、買い物でもしますか?」
「別に良いけど」
「せっかくですから何かプレゼントしましょうか?」
「今日は貴方の誕生日でしょ?」
あたしが買ってもらってどうするの、と。
由良は苦笑を浮かべた。
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「・・・」
給水塔の上で眠っていると、声が聞こえてきた。
人の気配がするため、すぐに目を覚ましていた雲雀は眼下の様子を面白そうに見ていた。
そこには最近よく話している蒼と、自称自分のファンクラブの会長らしいセリ。
俗に言う"呼び出し"を見ながら、どうなるのだろうかと眺めていた。
「・・・まあ、気付いてたけどね」
蒼が自分のことを好いていることは。
あれだけ露骨なまでに理由を作って会おうとしたり、
自分の持ち物を欲しがったりとしている様子を見れば、そう思わないはずがない。
そしてそれは現に自惚れなどではなかった。
しかしどうしたものかと思う。
もう少し雲雀としては楽しみたいのだ。
そんなことを考えていると、またその場に本日二度目の乾いた音が響いた。
「・・・痛そう」
真っ赤になっている蒼の頬を見やりつつ、雲雀は眉を寄せた。
そうして、そろそろ止めに入ろうかと雲雀はその場から降りた。
「ねえ」
そして声をかける。
本人がいるとは思いもしなかったらしいその場の面々は雲雀が声をかけると、
目に見えて動揺した様子だった。
蒼はただ単に驚き(自分の言ったことが聞かれていたとはまだ気付いていないだけで)、
セリたちは自分たちがしていたことを見られていたということに動揺していた。
「こんなところで何してるの、年下を寄って集っていじめて楽しい?」
僕、群れてる人間って嫌いなんだけど。
雲雀はそう言いつつ、愉しそうにしつつも冷たい視線をセリたちに向けた。
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「雲雀様に付き纏うのはやめなさい」
「は? 雲雀様って、雲雀恭弥先輩ですか?」
「他に誰がいらっしゃるの」
苛立った様に言われ、蒼は困った様に眉を下げる。
そもそも、どうしてこういう事になっているのか。と首を傾げた。
お昼を食べていたら呼び出されて無理やり屋上に連れてこられたから。以外に理由はないのだが。
「大体、先輩方は、誰なんですか?」
「わたしは、雲雀様ファンクラブの会長のセリ。後ろは、メンバーですわ。
雲雀様をお慕い申し上げ、貴女の様な抜け駆けする生徒に忠告するのが主な使命です」
「抜け駆けなんてしてませんけど」
蒼が溜息交じりに言えば、セリの眉が釣りあがる。
蒼としては、逢いたくても逢えずに物足りないくらいで、
最近、漸く挨拶以外に多少の会話に応じて貰えるようになった。と思っているくらいなのだ。
これで抜け駆けなら、もっと抜け駆けしたいくらいだ。
「まぁ、いいですわ。
ファンクラブに入って今後一切抜け駆けしないと約束するなら、今までのも許して差し上げます」
「ファンクラブっていったって、非公認でしょう?
雲雀先輩が群れを許す筈がないし、この行動だって、風紀乱してる。
嫌われるだけで好かれない集団なんか、入りたくないです」
お断りします。と、蒼がセリを睨みながらきっぱりといえば、乾いた音が響く。
叩かれた頬が熱を持つ感覚に、蒼は泣くどころか、顔を顰めた。
「雲雀様は、貴女に迷惑してらっしゃるのよ」
「恭弥先輩は迷惑ならそう言うし、邪魔なら問答無用で咬み殺してます。
影で文句を言ったりしないし、使うなら風紀委員な筈。
恭弥先輩の名前語って、勝手な事言ってる人たちに従う必要性がわかりません」
「わたしたちは、雲雀様の為を思って言ってるのよ」
「恭弥先輩を理由にしないで下さい。それこそ恭弥先輩に失礼です」
「な…!」
「私は、恭弥先輩が好きだから、もっと仲良くなりたいし、遠くから見て満足なんて思えません」
私は本人の言葉以外には従いません。と蒼が、言い切れば、再び乾いた音が響いた。
一番聞かれてはいけない人間に一部始終を目撃されていた事も、
セリに対する怒りで自分が“恭弥先輩”と呼んでいる事も、蒼はまったく気付いてはいなかった。
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