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準備を終えてメロディとソファでのんびりしていると慶が迎えに来た。
メロディが俺の膝の上から駆け出してぱたぱたと尻尾を振るのが目に映る。
「メロディ〜!」
また変な事を仕出かさないように首を慶の方に向ける。
昨日は途中で突っ込まなかった俺も確かに悪いけど。
昨日の事をちゃんと反省しているらしく今日はハグだけで終わった。
「春季、行こー」
「うん」
先を歩く慶の後を追って俺も玄関に向かう。
今日のお見送りは姉さんがしてくれるらしい。
メロディを抱き抱えて「青少年たちよ、行ってらっさい」等と訳の分からない事を言っている。
「青少年一号行ってきまーす」
「…行って来ます」
「ノリが悪いなぁ、もう」
メロディの手を使って俺の肩をベシンと叩く。
俺は聞かなかった振りをしてそのまま家を出た。
慶が慌てて俺を追い掛けて来て、その後は何時も通り。
他愛のない話をしながら登校。
最後に坂を登り教室に行くと何時もより騒がしくて首を傾げた。
教室を見渡すと黒板にデカデカと書かれた四角の枠が。
俺はそれを見て朝のショートで席替えをすると言っていたなと納得した。
「朝席替えすんのー?」
「また慶は話聞いてなかったのかよ」
俺を後ろからハグして肩に顎を乗せている慶が不思議そうに言えば名前は分からないけど取り敢えず慶の友達、が答えた。
「ぜんっぜん聞いてねー」
「威張るなよなぁ」
「そんで?朝やんのー?」
「らしいな。俺もさっき知ったんだけどな」
「宮っちも俺と大して変わんねーじゃん!」
慶は友達と会話をしてる間も俺を離すつもりはないらしくそのまま。
間に挟まれて凄く居心地が悪い。
それでも二人は会話に夢中だし他の人が気付くはずもなく俺はそのまま立ち尽くす。
「………慶」
流石にもう無理。
そう思って声を掛けると丁度担任が教室に入って来た。
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「はっるきーーー!」
大きな声とドアの開く音。
あまりの喧騒に抗議をしようとのろのろと体を起こす。
その直後、腹の辺りに大きな衝撃が来た。
衝撃に耐えきれなかった俺はそのまま倒れ込みもう一度ベッドに頭を着く。
それも凄い勢いで。
咎めようと目を開くと慶の眩しいくらいの笑顔が映る。
ごめん…今は慶のその笑顔が少しだけ憎い。
「おはよー、春季!」
「…おはよう。ねぇ、慶…重いんだけど」
「うん、今退けるー」
俺の上からひょいと退いて俺が起き上がる事を補助するように手を伸ばしてくれる。
俺が慶の手を取って起き上がるとそのまま引っ張られて思い切りハグされた。
「おはようのハグー」と言いながらぎゅうぎゅうに締め付けられる。
少し苦しいなと思いながらそれを受け入れ、ふわぁと一つ欠伸を漏らした。
暫くしておはようのハグに満足したらしい慶と一緒に階段を降りる。
そしてそのまま玄関に向かって慶を見送った。
「またあとでね」と。
慶を見送った俺は支度を済ませる為に踵を返してリビングに向かう。
リビングではメロディに餌をやっていた母さんが「今日はどうやって起こされたの?」と楽しそうに笑っていた。
ついでに珍しく姉さんも起きて笑っている。
「腹に乗っかられた」
「そう」
心底面白そうにくすくすと笑うと俺の朝食の準備を始めた。
先に朝食を摂っている姉さんも楽しそうに笑いながら「春季の目覚ましは慶で決定だね」と漏らす。
「慶が聞いたら怒るよ」
「そうだねぇ」
そう言って姉さんがコーヒーを煽るのと同じタイミングで俺の朝食が目の前に置かれた。
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その日、自宅に帰ったのは夜の十一時を回った頃だった。
そっとリビングのドアを開ける。
リビングの灯りは点いているけれど、慶は早寝する子だからもう寝てる筈。
荷物を置いて、ソファに身体を沈める。少し身体がだるくて、自分が思っているよりも疲れているかもしれないと思った。
そういえば、今日は悠輔と出かける事になったけど、慶には何も言わなかったな。
昼間だから良いか、と思ったけど朝『昼は家にいる』って言っちゃったんだっけ…。
慶は始業式で午前授業だった筈だから、『にいちゃんいない!』なんて大騒ぎしなかったかな?…もうそんなに子供じゃないか…。
少し前までにいちゃん、にいちゃんと俺の後ろをついて回ってたのに。慶も大人になっていくんだなぁ。
何だか寂しい気持ちになっていたら、ズボンの後ろポケットに入れている携帯が鳴った。
ポケットから取り出して開くと、メールが来ていた。隣人の冬季からだ。
『おかえり。
あんた、慶に隠し事してるでしょ。慶に怪しまれてるよ!
なんかあるんなら、早く言った方が良いよ。問題にならない内に。
あんた、隠し事出来ないんだから!』
…怪しまれてる?慶に?
慶は馬鹿だから、絶対感づかれないと思っていたのに。
いや、馬鹿にしてる訳じゃなくて、慶は馬鹿なところが可愛いんだ。ずっとそのままでいて欲しい。
だけど、怪しまれてるって…何でだろう。今朝、パソコンが欲しいとか言ったのが嘘だってバレてるのかな?
確かに咄嗟に出た嘘だけど…。
慶にはまだ悠輔の事を言っていない。
俺は悠輔が好きだし、それを恥ずかしい事だなんて思ってない。だけど、慶が知ったらショックを受けると思うんだ。
だから、言えなかった。でも、いつかは言わなきゃいけない事だ。
冬季の言う通り俺は隠し事が苦手だし、慶には悠輔の存在を受け入れて欲しいと思うから…。
分かってくれるかな…。最初は無理かもな。『にいちゃんなんか嫌い!』とか言われたらショックだな…。
でも、言わなくちゃ。両親は…いつかで良いとして、慶には言わなきゃいけない。
直ぐには分かってくれなくても、いつかきっと分かってくれるから。
明日はバイト休みだし、慶が学校から帰ってきたら話をしよう。俺も大学が始まったら、余計言い辛くなる。
そう決めて、俺は冬季に『大丈夫、心配しないで』と返事を返した。 |
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「メロディに変な事させないでくれる?」
「俺のメロディ〜っ!」
「メロディはウチの子!お前のじゃないから」
そんな俺達を、ママとなっちゃんが笑いながら見つめてた。
…どう思われてるか、若干不安だったり。俺ってアホだと思われてる…?
そんな事をしてたら、夜も更けてきたからそろそろ帰ろっかな、と立ち上がる。
「帰るの?」
「うん、そろそろ帰るー。ママ、ご馳走様でしたー」
「はい、お粗末様。また明日ね」
「おやすみ、慶兄」
「うん、おやすみー」
ママとなっちゃんの笑顔を背に、リビングを後にすると、春季がメロディを連れて見送りに来てくれた。
「そういえば明日、席替えだよね」
「え、嘘。マジでー?そだっけ?」
「ホームルームで言ってたじゃん。何聞いたんだよ…」
「そんなの聞いてねー。春季と近くの席になれるといーな」
「そうだね」
マジで春季の近くだといーな…。近くなくても同じクラスだし、家に帰ったらこうやって会いに来れるけどさ。
春季といっぱい一緒にいたいって思うのはどうしてなんだろ…。
これだけ一緒にいたって、まだ足りないって思う。不思議だなー。
今だって、ちょっと寂しい気分…。春季んちから帰る時はいつもこんな気持ちになる。
明日になったら、また会えるのに。何で寂しいんだろ…。
サンダルを履いて振り向いたら、春季がメロディの手を掴んでばいばい、と振る仕草をした。
「また明日」
「うん、おやすみー」
春季が可愛く笑ってたから、俺も笑って見せた。
そうだ、明日になったらまた会える。寂しい事なんかない。
今日は明日に繋がってるんだから。 |
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ママのご飯を美味しくて、全部どころかおかわりまでして綺麗に頂いちゃいました。
そういえばにいちゃんが『少しは遠慮しなさい』って言ってたっけ…。
でも、ママは俺がおかわりしないと、『あら、食欲ないの?』って心配そーな顔すんだもん。
それって俺はここんちの子みたいなもんだって思われてんのかもしんない。そう考えると嬉しいなー。
だけど、俺はここんちの子じゃなくて隣んちの子なんで、ある程度礼儀は弁えてるつもり。
だから、ご飯食べさせてもらった時は後片付けは手伝うんだー。俺って偉い!
でも、家でだってこんぐらいやってる。晩飯ん時だけね。
「あのさ、慶。静さ…」
「んー?にいちゃん?」
「…バイト、大変そうだね?」
洗剤を洗い流した皿を渡しながら、冬季姉はそう尋ねてきた。
冬季姉、どうかしたのかな?何か言いたそう…?
「あー、パソコン欲しいらしいよ?」
「あ、そうなんだ」
「うん、でもそれは嘘なんだ」
「は?嘘?」
「だってにいちゃん、隠し事出来ねーんだもん。直ぐバレるっつの」
そうなんだ、にいちゃんは隠し事が出来ない。なのに、隠そうとするから変に勘ぐっちゃうんだって。
最初っからホントの事言ってくれれば、『あ、そーなんだー』で済むのにさー。
冬季姉はそうだよね、と呟いた後、黙ってしまった。何かを考えてるみたいだった。
後片付けを終えて、リビングに戻るとメロディが尻尾を振ってお出迎えしてくれた。
お出迎えっていうか…、さっきまで春季の膝の上で寝てたけど。
良いなー、メロディは。俺もメロディくらい小さかったら春季の膝の上に乗るのになー。
「メロディ〜」
メロディを抱き上げて、ソファに腰掛ける。
ちゅ、ちゅって何回もキスしてたら、メロディに唇を舐められた。
「メロディってば、いきなりディープキスかよー!」
「……………」
「ダメだってば、そんなとこ舐めたら!」
「……………」
「やん、やんっ、いや〜んっ」
メロディとラブラブな一時を過ごしていたら、春季にメロディを盗られた。
ひょい、とメロディを持ち上げた春季はちょっと怒った顔。
…すんません、ちょっとツッコんでくれるの待ってました。 |
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慶と二人でメロディが夏季の邪魔をしないように遊んでいると出掛けていた姉さんも帰って来て夕食になった。
それぞれが自分の席に着いてテーブルを囲む。
全員が揃ってから手を合わせて「いただきます」と言うと食事が開始された。
「慶がウチにいるって事は静、またバイト?」
「そーなんだよー」
ぶっすーと唇を尖らせる慶。
姉さんはそれを見て何かを考える仕草を見せた。
「頑張ってるんだね、静兄」
沈黙してしまわぬように夏季が言えば慶は解せないと言うような表情を見せた。
何か姉さんが心当たりがあるような表情してるのが気になる。
じっと見てると俺と目が合った姉さんがやっぱり分からないとでも言うように肩を竦めた。
「そうだわ。さっきからずっと聞こうと思ってたんだけど…二人は同じクラスになれたの?」
「ママ、ナイスー」
「え?あら、そう?」
母さんが不思議そうに首を傾げると慶は嬉しそうに「やっと同じクラスになれたんだよー」と言って同意を求めるように俺を見る。
俺は首を縦に振ってyesを示した。
「良かったわね」
「うん。超嬉しい」
「春兄と慶兄が同じクラスなら一緒にいるよね?そしたら体育祭とか文化祭、見に行きたいなぁ」
「夏、ナイスアイディア。別々だと会いに行くの面倒だし、丁度良いね。私も冷やかしに行こ」
冗談ぽく笑った姉さんに慶も笑いながら「冷やかしかよー」と突っ込んでいた。
何だか俺達より三人の方が喜んでる気がするんだけど。
気の所為?
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慶の様子が可笑しいのは俺の所為なんじゃないかと思った。
俺が昼間にあんなこと言ったから。
だから慶は俺に我が儘を言わないようにしたんだと思う。
でも、そんな事、俺は望んでなんていない。
上手く言葉に出来ないから勘違いさせてしまうかもしれないけど俺は慶が嫌だと言うその日まで慶の隣にいたい。
慶が嫌になるまで俺の隣にいて欲しい。
だから大人の階段を一緒に昇れるかは慶次第だよ。
俺が慶の隣にいても良いのなら一緒に昇る。
…その言葉が何を意味するのか分からないけど。
メロディが待ちくたびれたのか「遊んで遊んで!」と吠えると慶は渋々俺を離した。
慶が思い切りボールを投げとメロディはそれを嬉しそうに追い掛けた。
メロディが満足するまで慶は遊んでくれた。
俺だとすぐに終わらせるから久々に満足したらしいメロディは慶に駆け寄ってお礼を言うように飛びついた。
慶も「可愛いなぁ、メロディは」とぎゅーと抱き締める。
「慶、そろそろ帰ろう」
戯れている慶とメロディに声を掛けて立ち上がる。
俺は座ってただけだから疲れてないのは当然だけど慶もメロディもあまり疲れてないみたいで驚いた。
家に帰ると夏季が帰って来てるのかさっきまでなかった靴があった。
足も拭かずにさっさと家に入ろうとするメロディに手を伸ばして捕まえる。
置いてあるタオルで足を拭いてから家の中にメロディを上げた。
慶がメロディと先にリビングに行くと夏季と母さんの声が聞こえて来た。
俺も玄関先に荷物を置いてから後を追ってリビングへと向かう。
リビングでは夏季がケーキの飾り付けをしていた。
「春兄か慶兄、メロを拘束してっ」
「何でー?」
「フルーツ狙ってる目をしてる」
ケーキをメロディの届かない場所に移動させながらメロディの乗っかっている椅子を足で蹴る。
俺はメロディを抱き上げて慶に渡した。
「メロディ、俺と一緒に遊ぼうなー」
抱き締めながらソファに座る。
メロディはそれでもフルーツが気になるのかちょくちょく夏季の方に視線を送っていた。
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そう言うと、春季の眉間の皺が更に深くなる。超考えてる…。
気付いて欲しくないから、はっきり言ってないんだけどなー…。
「…よく分かんないけど、慶はそのままで良いと思うよ」
「…それじゃ意味ねーし」
「何の意味?良いじゃん、そのままで。大人になりたくなったら大人の階段…?昇れば良いんじゃない?」
「だけど…」
それだったら春季、俺の隣にいないかもしんないじゃん。
そんなの、嫌なんだもん。
「まあ、良いけどさ。さっきみたいに遠慮とかされると、俺がへこむ」
「え、何で?」
「…慶に我侭言われるの、結構好きだから」
春季から返って来た答えにきゅーんとなった俺は、春季まで一直線に走った。ちなみにボールは持ったままだから、メロディもついて来る。
そのまんま春季をぎゅーって抱き締めると、ちょっぴり苦しそうだけど離したくなかった。
俺がさっきから悩んでた事の答えを春季が全部出してくれたようで、少しだけ泣きたくなる。
だって、春季がそのままで良いって、我侭言っても良いって言ったんだ。俺に我侭言われんの好きだって。
それは、春季の隣にいて良い、むしろ隣にいろと言われたみたいで超嬉しい。
でも、涙は堪えた。それは我慢じゃなくて、泣いたらみっともなくて恥ずかしいってだけ。
「春季ー、俺春季が大好きだー」
「そりゃどうも…」
「大人の階段昇る時は一緒に昇ろーなー」
「…ねえ、そもそも大人の階段って何?」
そんなの知らない。でも大人になる時、階段を昇るんだ。
何でか分かんないけど。 |
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春季に『メロディの散歩、一緒に行く?』って誘われてついてく事にした。
春季と一緒にいたいなぁ、なんて思ってただけに好都合だ。
俺から『行く』って言ったんじゃなくて、春季から誘ってくれた事に酷く安心した。
春季は俺を邪魔だなんて思ってない。邪魔だったら誘ってくれないもん。
それが分かって良かった。
でも、俺はもうあんまり我侭言わないようにする!ハグもあんまりしない!
それが大人への第一歩ってヤツだ!
春季と離れるとかじゃなくて、春季と一緒にいたいからあんまり迷惑掛けないようにすんの。
俺って超偉い。今日だけでかなり大人になった!
…なんて思ったのも束の間。
散歩の途中、メロディと遊びたいなーって思った。
でも、春季は太陽の日差しが苦手だし、外にいるのもあんまり好きじゃねーから嫌だよな…。
よし、我侭言わないぞ!って思ってたのに、速攻で春季にバレた…。
何でー…。うう、大人になるのって難しい…。
だけど、メロディと遊ぶのは楽しくて。
ボールを投げたら嬉しそうに走って行って、ボールを銜えて戻ってくる。
もーメロディ、かわいーっ。だから、そろそろウチの子になればいーのに。
ぎゅーってしたいけど、メロディはまだまだ遊びたいみたいだからそこは我慢した。
「慶…、何か無理してない?」
ベンチに座ってる春季に唐突にそう言われて、俺はぽかんと口を開けて春季を見た。
ボールは手に持ったまま。メロディに『早く投げろ』と足元に纏わり付かれて、俺は慌ててボールを投げた。
「無理って、何がー?」
「だからさ…、『メロディと遊びたい』って何で俺に言わなかったの?」
「え、いや、別に…。ただ俺は大人の階段昇ろーかなって思っただけで…」
「はあ?」
我侭ばっかり言ってたら春季に嫌われるかもしんないから、あんまり言わないようにする事にした――って春季に言えなくて、俺は曖昧に答えた。
メロディがボールを持って戻ってきたから、また投げる。
春季は考え込んでるのか、眉間に皺を寄せた。
「慶は大人になりたいの?」
「うーん、まだいーや。だって、大人になったら大変なんだろ、仕事とか生活とか色々」
「じゃあ、どうして大人の階段昇るの?」
「………そのほーがいっかなーって思って」 |
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階段を降りて母さんに声を掛けて散歩に行く。
何時もの散歩道を今日は慶も一緒に。
「春季ー」
「何?」
「…やっぱ、なんでもねー」
ぷい、と俺から目を逸らす。
何か隠してるな。
じっと慶の横顔を見て何を言おうとしたのか考える。
「慶………メロディと遊びたい?」
「そんなわけねーじゃん!」
がば、と俺を振り向いた。
慶ってこう言う時は本当に分かりやすい。
散歩グッズの中に手を入れてボールとフリスビーを確認する。
一応持ってきておいて良かった。
俺はあんまり外に居るのが好きじゃないから普段ボールは家の中で投げてる。
でも慶がやりたいなら少しくらい長く外に居たって全然構わない。
太陽ももうそう俺の肌を刺激しないし。
「何今更俺に遠慮なんてしてるの」
「してねーって」
「…ちゃんとボールもあるけど」
「え?マジで?」
「ほら、遊びたいんじゃん」
目を輝かせてたのに「ちげーよ」って言っても無駄。
それにしても何で突然あんな風に隠したんだろう。
「メロディも喜ぶし、遊んでやってよ」
「…分かった」
散歩のルートを少しだけ変更して公園に行く。
小学生とかいるかな、とも思ったけどそうでもないらしい。
「春季もやろー」
「俺もって…ボール投げるだけじゃん」
「良いからー!」
メロディの首輪とリードを離してベンチに座ろうとした俺の手を取ってボールを掴ませた。
メロディは俺がボールを持ったのを見て早く投げろと俺の足元で見上げている。
仕方なしに投げるとボールを追い掛けて俺の方へ持って戻って来た。
ボールを取り合って今度は慶に渡す。
「俺がメロディと一緒に追い掛ければいーんじゃね?」
「慶、お手」
「わんっ!って何させんだよー」
「慶が勝手にやったんじゃん」
て言うか慶が犬みたいな事するって言うから。
でも慶って本当に大型犬っぽい。
「それより慶とメロディで遊びなよ。ベンチに座って見てるから」
「えー」
えー、と言いながらも俺がベンチに座ってしまうと大人しくメロディと遊び始めた。
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