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| タイトル |
独り身が聞いてはいけない話をしている-3523 |
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「……」
自分にもたれてくる由良に、骸は内心溜息を吐いた。
由良の行動で自分が嫌がる事を考えてくれるのは嬉しい。
欲を言えば、こうなる前から考えるようになっていて欲しかったが、
あの学習しなかった態度から比べれば、かなりマシだと思う。
しかし、遠慮しすぎて鬱々しては、意味がないだろうとも思うのだ。
「僕の事を考えて下さるのは嬉しいですが、無理に頑張らなくていいんですよ」
「……けど、あたし嫌な事ばっかりしちゃうし」
「ですが、そうやって気にし過ぎて、鬱々されてる方が嫌ですよ、僕は」
由良の鬱々している姿は見たくはない。
それに、自分で決めた事で勝手に鬱々されるのは、
骸からすれば、自分が無理やりそうさせているように見える為、逆に腹立たしいのだ。
骸の指摘をもっともだと思ったのか、由良は落ち込んだように顔を俯け、
小さく「ごめんなさい」と呟いた。
「貴女は極端ですから」
骸はどうして最初に気付かないのかと呆れた顔をしつつ、そう言って頭を撫でた。
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| タイトル |
君との現在・過去・未来 PriceLess-3522 |
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「もうすぐ、新年ですね」
雲雀に凭れるように座っていた蒼が、時計を見て呟く。
年越し蕎麦も食べ終わり、今は残った寿司や御節料理を摘まみつつ、のんびりと酒を飲んでいた。
空いた皿も片付けず、長々と飲食を続けるのは雲雀にしては珍しいし、
このようなだらけた生活は、雲雀としてもあまり好きではない。
しかし、こうでもしないと蒼は後片付けに動き回り、お酌をしてくれないから仕方がないのだ。
「ただ西暦が変わるってだけなのに、大げさだよ」
「そんな元も子もない事言わないで下さい」
「でも、事実でしょ」
「じゃあ、恭弥さんは、来年から年越ししなきゃいいじゃない」
雲雀の言い分に、蒼はむすっと頬を膨らませる。
蒼としては、やはり新年に変わる瞬間は何となく楽しいのであり、
あまり水を差すような事は言って欲しくないのだ。
例え正しいのは雲雀だとしても。
「私は着物着ないし、御節も年越し蕎麦も恭弥さんの分は用意してあげない」
「どうしてそうなるの」
「だって、恭弥さんにとってはただの夜なんでしょう?」
そう言って首を傾げる蒼に雲雀が反論しようとした瞬間、
蒼はぎゅっと雲雀に抱きつくと、軽く唇を寄せた。
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| タイトル |
君との現在・過去・未来 PriceLess-3521 |
今日の気分 | 終 |
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「恭弥さん、恭弥さん」
ぐつぐつと煮立つ鍋から具をよそっていると、蒼が声をかけてくる。
どうしたのだろうかと「何」と言いつつ、菜箸でよそっていると蒼は、
「蟹剥いてください!」
「…」
呼ぶから何だろうかと思えば、蟹を剥いて欲しいと言い出す蒼に雲雀は呆れ返った様子だった。
どこの世界を探しても自分に蟹を剥いて欲しいと言うのは蒼ぐらいだろうと思う。
そして溜息を吐いていると蒼は首を傾げ、「恭弥さん?」と口を開く。
「…まあ、良いけどね」
「早く早く、恭弥さん」
「こんなこと、僕にさせるのなんて蒼ぐらいだからね」
ちゃんと分かってるんだか、雲雀はそう思いつつ、蒼から受け取った蟹を剥く。
これぐらい簡単だろうに。
そう思って剥き終えた蟹を蒼に渡すと、蒼は嬉しそうに笑う。
「有難うございます、恭弥さん」
「どういたしまして。…でも、どうして自分で剥かないの?」
「着物が汚れちゃうからです」
「…」
蒼らしい理由だ。
雲雀はそこまで考え、そして苦笑交じりに溜息を吐いた。
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| タイトル |
独り身が聞いてはいけない話をしている-3520 |
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自分らしくない、と言われても、と由良は眉根を下げた。
そうは言われてもやはり今まで通りには振舞えないのだ。
「…骸がどこまでなら嫌がらないかって考えてるから」
「だから鬱々するんですか?」
その言葉に由良は小さく頷く。
そう考えて、出て来る距離感に自分で考えたことではあるけれど、落ち込んでいるのだ。
自分でも馬鹿らしいとは思うけれど、やはり気にしてしまう。
こうして少し離れているのも骸が嫌がるかもしれない、からだ。
「馬鹿ですね」
「…」
呆れたように溜息を吐く骸に由良は視線を伏せる。
そうしていると不意に腰に手が回されたかと思うと、そのまま一気に引き寄せられる。
驚いたように骸を見れば、呆れた表情をありありと浮かべていた。
「…、骸、」
「こうして妙に気を遣うから鬱々するんですよ」
そう言って溜息を吐き、骸は湯のみに口をつける。
それを見やり、由良は少しだけ嬉しそうな顔をして、同じように湯のみに口をつける。
今度はあまり熱くは感じなかった。
それから少しだけ、骸の方にもたれかかった。
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| タイトル |
独り身が聞いてはいけない話をしている-3519 |
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由良の態度に、骸は何度目かの溜息を吐いた。
骸としても、由良を責めたい訳ではないし、落ち込ませたい訳でもないのだ。
―由良の相手をしていると、どうしても小言ばかりが口を出てしまうが。
「ですから、これから気をつけて下さればいいと言ってるでしょう?」
「……うん」
「僕は、ごめんなさいではなく、態度で示して欲しいんです」
今まで何度こんな事を繰り返したと思ってるんですか。と、続けそうになった言葉を骸は呑み込む。
実際、過去に似たような事で喧嘩になった事は幾度かある。
そして、この間も言ったように、「直す」という由良に期待して、裏切られて、
また似たような事で喧嘩になっていた。
さすがの由良も、この間の一件は相当堪えたらしく、気をつけようとしているようだから、
わざわざ蒸し返すのはやめようと思ったのだ。
―こんな事になる前に、わかって欲しかったのだが。
「…わかってる、よ」
「僕に信じて欲しいと言ったのは貴女なんですから。今度はきちんとできるんでしょう?」
「……」
「それと、元々は貴女が原因なんですから、あまり鬱々しないで頂けますか?」
貴女らしくありませんよ。と骸は苦笑した。
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| タイトル |
君との現在・過去・未来 PriceLess-3518 |
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「ありがとうございます」
蒼は満面の笑みを浮かべると、心底安心したように息を吐く。
雲雀が見立ててくれた物だからこそ、いつも以上に反応は気になるのが女心。
贅沢を言えば、もう少しはっきり言って欲しいが、雲雀の性格を考えれば十分すぎる言葉だ。
「では、恭弥さんが褒めてくれた所で、会場である和室にご案内ですっ」
「随分と大げさじゃない?」
「だって、この家で年越しするの初めてだから、頑張ったんですよ」
喜んでくれるといいな。と笑って、蒼は雲雀の手を握ると歩き出す。
まるで、はしゃいだ子供が親を急かすような仕草に、雲雀はこっそりと笑みを浮かべつつ、
蒼に促されるまま和室に向かう。
そして、そこに並べられていた料理の数々に、僅かに驚いた顔をした。
テーブルの上には、日本酒に御節らしき重箱、寿司や蟹等が所狭しと並べられていたのだ。
「凄いでしょう? お寿司は武君からの差し入れで、蟹はツナ君からのお裾分けです」
「…へぇ」
御節の苦労話や、日本酒の種類等を色々と親に褒めて貰いたい子供のように説明しつつ、
蒼は雲雀を座らせると、雲雀の隣に座って日本酒を注ぐ。
そして、雲雀が自分のお猪口に注いでくれようとするのを制し、きちんと座り直し、
「今年も恭弥さんと無事に1年を過ごせて良かったです」
傍に居させてくれてありがとうございました。と、蒼は頭を下げた。
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| タイトル |
君との現在・過去・未来 PriceLess-3517 |
今日の気分 | 終 |
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夕飯だと言う蒼の言葉に雲雀は時計を確認する。
見てみれば、確かにちょうど良い頃合いで、気付けば空腹感もあった。
「今行くよ」
雲雀はドアの向こうにいる蒼にそう返し、一先ずは最中だった書類を片付ける。
そしてそれから漸く雲雀はドアを開けた。
いつもならこうしてドアの傍で待ってないのに。
雲雀はそう思いながらドアを開け、目を見開いた。
「…」
ドアを開ければ、そこには着物を着た蒼がいた。
どうやらそれは以前、蒼に買って普段は和室に飾られているものだった。
「…あ、あの」
蒼は顔を俯けさせながら口を開いた。
そして伺うように雲雀を見やる。
「どうですか…?」
着てみたんですけど。
蒼の言葉に雲雀は驚きからとりあえずは落ち着き、そして蒼を改めて見やった。
似合うだろうと思って買っているのだから、当然その着物は蒼に似合っている。
「良いんじゃない?」
雲雀は頷きつつ、言葉少なにそう言った。
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| タイトル |
独り身が聞いてはいけない話をしている-3516 |
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「…ごめんなさい」
由良はしょんぼりとして顔を俯けさせた。
思えば、骸はそう言うのも当たり前で、もし自分が骸の立場であったら間違いなく嫌だ。
そうして顔を俯けさせていると、骸は隣で溜息を吐いた。
「そう思うなら、気をつけてくださいね。…今回は、もう流れているから仕方ないですし」
貴女が気にするなら次からはこのような噂も流れることはないでしょうし。
そう言う骸に由良は小さく頷いた。
気をつけているつもりではあるのだが、それも甘いらしい。
そうして黙り込んでいると、骸は溜息を吐いた。
その様子に僅かに肩を震わせ、由良は恐る恐るといった様子で骸を見やる。
「別に、僕だってこういうことはあまり良いたくないんですよ」
「…うん。言わせてるのは、あたしのせいでしょ?ごめんね」
すっかりと落ち込んでいる様子だ。
由良は持ったままだった湯のみを持ち直して、口をつける。
それはまだ熱い。
「分かってるんだけど…、ちゃんと出来なくてごめんね」
骸に嫌な思いはもうさせたくないんだけど、させてばかりだね。
由良は自嘲気味に笑うと、顔を俯けさせた。
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| タイトル |
独り身が聞いてはいけない話をしている-3515 |
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「金髪王子が尾鰭や背鰭をつけたのだとして、一概に彼を責めるのはどうかと思いますけど」
そう言って、骸は溜息を吐く。
噂など誰かが面白可笑しく風潮した低俗な話であり、下らないと思うが、
自分と由良が、当事者となれば、腹立たしいのも事実である。
−雲雀が、それと知っていて、わざと持ち出してくるだろう事が、一番嫌なのだが。
「…骸はベルの味方をするの?」
「いいえ。ですが、貴女の今までの行動にも非はあるでしょう?」
噂に背鰭がつくのはセオリーではある。
けれど、消えるどころか尾鰭が付いて拡大しているのは、由良自身にも原因があると思うのだ。
「どういう意味よ」
「僕との噂はともかく他の男との噂が信じられるのは、明らかに貴女が今までそう見える行動だった…
他の男にべったりしてたからではないか、と言ってるんです」
「してないわよ」
「していたように見えますが。実際、それで喧嘩になった事もありましたし」
「……」
「僕に変な噂を聞かれて信じられるのが嫌なら、そのような行動は謹んで下さいね」
僕も、他の男の子を妊娠してるだとか、聞きたくないですから。
と、骸は言い聞かせるように言った。
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| タイトル |
君との現在・過去・未来 PriceLess-3514 |
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「……できた」
姿見に映る自分を見遣り、蒼は達成感と疲れの入り混じる息を吐く。
常日頃から雲雀に合わせて浴衣を着る事は多いが、着物を着る機会はない為、
帯結びに手間取り、悪戦苦闘していた着付けが漸く終わったのだ。
雲雀に頼めば簡単に結んで貰えるだろうが、やはり初めてなのだから内緒にして驚かせたかった。
「喜んでくれるかな」
昨年の年越しは、記憶喪失が治った直後で碌に準備もできず、
一昨年同様、日本の旅館に行った為、この家で年越しするのは実は初めて。
そこで、昨年何枚か買って貰い、同棲してからは和室の衣桁に季節に合わせて飾っていた着物を、
気合を入れて着てみたのだ。
−蒼の場合、イベントであれば、いつも気合が入っているのだが。
「恭弥さん? まだお仕事してるんですかー?」
「……何?」
「そろそろご飯の時間ですよー?」
仕事部屋の扉を叩きつつ、蒼は声をかける。
大晦日くらい仕事をしないで欲しいのだが、雲雀の仕事を考えれば、仕方がない。
そのお陰で内緒で着物を着れたのだし。
もっとも、一昨年のレンタル着物を喜んでくれたから、着物を着たというのもある蒼としては、
出てきた雲雀の第一声が心配ではあるのだが。
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