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| タイトル |
110-3 忘れられない過去 |
今日の気分 | 終 |
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だって、久弥はもうとっくに……ああ、そうか。
そういえば誰も、久弥が死んだとは口にしてなかったんだ。
夕貴が名前を言ったくらいだったし、俺の前では気遣ってなのかハッキリと死という言葉は使わないようにしていたらしいから。
グラスを空けて、目を閉じた。
「死んだよ」
そっと呟くように言って目を開ける。
その一言は、思っていたよりもするりと出てきた。
「え?」
「コンクールまで一月を切った風の強い日。人と話してたアイツを置いて先に帰ろうとして…俺を追ってきたアイツは、事故にあって死んだ」
酔っている。もう口を閉じるべきだと理性が言うけれど。
アルコールに溶かされた思考はいっそ愉快で。
エンドロールも終わり、タイトル画面に戻っているテレビを見ながら言葉を紡ぐ。
「脇見運転の車から俺を庇ってね」
強く胸元を…正確には首から下げた指輪を、掴んでいた。
あの後すぐに吹っ切ったつもりだったのに。
実際には此処まで引きずっている自分が女々しくて情けない。
それで周囲に心配をかけて、挙句の果てに涼に…大切な相手に哀しそうな顔をさせているんだから尚更だ。
「悪い、嫌な話だったよな…」
「…ううん。…どんな人だった?」
俺の様子を伺うように、涼が尋ねて来て。
気遣いに、言ってしまうほうが楽になれそうだと自分勝手な都合で口を開いた。
「マイペースで押しが強くて甘えるのも甘やかすのも好きで…知り合い以外には感情見せない奴だったな」
大学内でアイツが気を許していたのは俺と秋人くらいだった。
クール、なんていう評判を聞くたびに笑ったものだったけど。
「男と付き合うなんて思ってなかったから、付き合った後も素直に気持ち言わなくてアイツを失ってから後悔したんだ。だから、涼に対しては言葉を惜しみたくないと思ってる」
まぁ好きだというと照れる涼が可愛いからというのもあるけど。
まるで慰めるように肩に手を置かれて、小さく笑うとその手をとって口付けた。
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「留学の権利はコンクールの優勝者に与えられることになってて、俺は優勝したんだけど。本当は俺よりもっと巧い奴が居たんだ」
「巧い奴って、辻さん?」
「秋人は興味ないからって出なかった。…優勝は運が良かっただけ」
そう、あれは運の問題だった。
「運?」
「ああ。…涼には聞きたくない話かもしれないけど…」
言いよどむと良いから、と促される。
ウイスキーで喉を湿らせてから背凭れに体重を預ける。
ギシ、と革の軋む音がした。
「コンクールの少し前にそのとき付き合ってた奴が…居なくなって。心情と曲のイメージがピッタリだったってだけ。これが明るい曲だったらダメだっただろうな」
死んだ、とハッキリいえば良いのに。
何をぼかしているんだろうと我ながら思う。
「…久弥さん…」
ポツリと、涼が呟いて。
そういえば涼は久弥の名前知ってたんだっけ、と。
アルコールにぼやけた思考が浮かぶ。
そもそももっと一言で済むような簡単な答え方だってあったのに、わざわざ具体的に喋ってしまっている辺りから酔っていたんだろう。
恋人の、昔の恋人の話など進んでしりたいものじゃないだろうに。
「ああ。久弥が居ればきっと優勝はアイツだったから…で、結局留学はしないまま卒業して叔父のところで働かせてもらったんだ」
「久弥さんって巧かったんだ?」
話題を区切ろうとした俺に、涼が続けた。
戸惑いながらも頷く。
久弥はあの大学内で一番だったと思ってる。
「技術があったし、表現も豊かで…陳腐な言い方だけど天才ってとこかな」
「そっか。久弥さんはピアニストになったの?」
暫く涼の言葉の意味が分からなかった。
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涼の作ったドリアを食べて、後片付けをして。
まだ早い時間だったが酒でも飲みながらDVDを見ることにした。
俺は貰い物のウイスキーが余っていたのでロックで飲むことにして、涼はあまり強くないようだからチューハイで。
つまみや菓子類をテーブルに並べてソファに座ると涼も隣に座る。
少し空いている空間を、肩を抱き寄せることで埋めた。
ソファという定位置をとられた吹雪は足元で丸くなっていた。
「どれから見ようか?」
「どっちでも良いよ」
それならと先に取り出したほうから見ることにした。
映画は何が好きかなど、たまに他愛もないことを喋ったりしながら何度か杯を開けて。
いつの間にか2枚目のDVDも後半に来ていた。
テレビの中で主人公が弾くピアノの音色が静かに続いている。
「遠野ってピアニストにはなろうと思わなかったの?」
「いや、なりたいと思ってた。それで音大まで進んだし」
結局なれなかったけど。だけど諦めきれていないからバーでピアノを弾かせてもらったりしているんだろう。
グラスを傾けると氷がカランと音を立てた。
「ダメだったんだ。巧いと思ったけど」
「チャンスはあったんだけど、な」
「チャンス?」
不思議そうにしている涼の頭を撫でる。
幼い頃から描いていたピアニストの夢。
もしかしたら叶っていたのかもしれない。
だがそれを潰したのは俺自身だった。後悔はしていないとはいえ。
「其処を出れば音楽家として将来安泰、って言われてるところに留学できることになってたから」
「なってた、ってことはしなかったの?」
チビチビとチューハイを口にしながら、涼が口にする。
頬が赤く染まっているし程々で止めたほうが良いのかもしれない。
そんなことを思いながら空いたグラスに氷を入れた。
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「折角久しぶりの二人っきりなのに」
「…オーブンに入れたらそっち行くから待っててよ」
そう、今日は久しぶりの二人っきりだった。
何かと慌ただしく、二人っきりになるのは数分とか邪魔が入ったりとか。
文字通りの二人っきりになったのは久しぶりのことだったのだ。
「これオーブンに入れればいいの?」
「あーもう!これ上げるからあっちに行っててよ」
「つれないなー。ん、これは…」
「マフィン。明日の朝にでもと思ったんだけど、これあげるから待っててよ」
仕方ないなと言いつつも、顔は綻んでいる。
本当に甘いものが好きなんだなと口には出さず思う。
今回のマフィンは紅茶とチョコの二種類作った。
なかなか上手く出来たと思うけど…感想が気になる。
オーブンにドリアを入れ、温度とタイマーをセットしてキッチンを後にした。
「涼、これ美味しい」
リビングに行くなり、ソファに座った遠野が感想を述べた。
その笑みだけみればわかる。どうやら気に入ってくれたらしい。
素直に感想を述べ、笑う遠野はいつもより幼く見えて可愛い人だと思った。
「…そりゃ良かった。リクエストがあればまた作るよ」
「そうだな…ケーキがいい。生クリームたっぷりの」
上機嫌に話す彼がとても愛しく思えた。
しかも生クリームたっぷりというリクエストが子どもみたいだ。
つくるならベタにショートケーキか。シフォンケーキに生クリームでもいいけど。
遠野の様子と思案するのに思わず笑みがこぼれた。
「その笑顔、もっと見せてくれたらいいのに」
「…たまにの方がありがたいだろ?」
「そうかもな」
遠野の手が俺の髪に伸びる。そしてそのまま無言。
自然と距離が縮まり、ゆっくりと一連の動作のように瞼が降りてきた。
あと数センチ――とそこでオーブンのタイマーが静寂の中に鳴り響いた。
俺はばっと離れて立ち上がる。
「あ、俺見てくるから!」
「残念。こっちはオアズケだな」
「…一人で言ってれば」
赤い顔を見られないように、俺はその場を後にした。
ドリアは上手く出来ただろうか。
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文化祭を終えてからはバイトに明け暮れた。
といっても今日、金曜日だけは休みをもらった。
それは勿論遠野と会うためなのだけど。
週に一回会えるのは良い方なのかも知れないけど、もっと会いたいと思う自分が居た。
だけどそんな我儘は言えない。
お互いに時間をつくるのは難しいのだし。
休憩の時に文化祭だったと館長に話していると、「行きたかったのにー!」とリリさんに後ろから抱きつかれた。
此処でも俺は抱きつかれるポジションなのかとこっそりため息を漏らした。
何をしたのと聞かれ、あのコンテストのことも過ったが喫茶店をやったとだけ言っといた。
ウェイター姿はまだ言いとして、女装したことなんか言う訳がない。
そんなことばれたら…見せてだのやってだの言われるのが目に見える。
何はともあれ、最後まで振り回されてばっかりだった文化祭は終わった。
抱きつかれてばかりだった気がするというか、実際そうだったのだけど。
首締めに近いヒロに真、まさか遠野の従妹香苗ちゃんにまで抱きつかれるとは思わなかった。
夕貴君が止めてくれなかったら確実につぶれてたと思う。
和弥は相変わらず傍観したまま写真撮ってるし。
それに遠野も遠野だ。事情を知っている人が殆どだとはいえ、あんなこと言わなくてもと少しでも思い出すと、頬が熱を帯びそうになる。
これから本人と会うというのに、大丈夫だろうか…。
ほぼ習慣になりつつある、金曜日のお泊り。
映画でも見に行こうかとなったのだが随分混んでいて、それならDVDでも借りて家でゆっくりしようということになった。
適当に二枚借り、スーパーに寄ってから帰ることになった。
「手伝うことある?」
「ない」
「即答だな。別に遠慮しなくていいんだよ?」
「ないから…その背後に立たないでくれる?」
今更ながら遠野の部屋は広いと思う。
大の男が二人も並べるキッチンなんて、そうそうないし。
だからと言ってわざわざ並ばなくてもいいと思う。
遠野は俺の後ろから覗き込んでいた。今日つくっているのはドリア。
野菜と鶏肉を入れたもので、今はホールトマトとチーズを散らしている。
これをオーブンで焼けば完成だった。
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| タイトル |
108-4 控え室で大騒ぎ |
今日の気分 | 終 |
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とりあえず皆が離れてホッとしている涼に近づいた。
疲れている様子の彼を抱きしめる。
化粧の人工的な匂いに混じっていつもよりも甘い匂いがするのは、朝のお菓子作りの匂いが残っているのか。
「涼は俺のだから」
宣言のように言うと、涼が何か言いたそうに口を開いた。
だが言いかけた言葉は他の連中の笑い声にかき消されてしまったけれど。
笑われているうちに呆れたのか、諦めたのか。
溜息をついて苦笑を浮かべた涼に、香苗の方向を示す。
「涼、あっち見て」
促すと素直に向いてくれて、その瞬間にカシャッと音がした。
香苗がデジカメを構えて続けて何度か撮っている。
「サンキュ、香苗」
「今のって…!」
「ツーショット?」
差し出されたデジカメを受け取って、照れてる表情をもう一枚。
これくらいで良いかとそれでデジカメはポケットに仕舞った。
「ああ、そうそう。紹介するよ、俺の従妹の香苗」
「東の海に香る苗で東海香苗って言います!」
キラキラと目を輝かせる香苗が涼の手をとった。
甘え癖はそろそろ治させたほうが良いのかもしれない。
先ほどから言いたい事が言えずにいる涼は、面食らったのかやはり何もいえないでいる。
「あ、家は月代で“Il Mare”っていうレストランをやっているので皆さん良かったら食べに来て下さいね」
ついでにというように周囲を見回しながら、駅から徒歩で何分、目印は何処などと宣伝している。
「“Il Mare”って…あの?」
「オーナー夫妻の一人娘。今年18だから大学見学に葉月祭見にきたんだってさ。抱きつきは癖っていうのはさっきので分かったろ?」
妬く必要ないから、と笑うと涼の顔が赤くなった。
可愛い反応。人目がなければキスでもするんだけど。
ああ、カメラしまうの少し早かったかと少し後悔した。
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「私は絶対優勝だと思ってたんだけどね、こんなに可愛いんだし」
ぎゅっと涼を抱きしめたヒロちゃんが此方を見る。
その視線がとても楽しそうで余裕が無いとは思うがなんだか悔しい。
俺は周囲のことも考えて我慢しているのに。
「あ、ヒロばっかりズルイー俺も!」
そんな俺をよそに、そんなことを言い出した真君までが涼に抱きついた。
涼はというと諦めているのか無抵抗だ。
「あの人が司ちゃんの恋人なんだよね?モテモテ」
感心したように言った香苗が俺の影から出てきて、興味津々と言った様子で近づいた。
それから何を思ったのか自分まで飛びつきだしている。
「わぁ、肌綺麗!化粧までしてるんだ、腰細いー!」
「でしょう、肌理細かいのよね」
「触り心地良いよね」
キャッキャッと騒ぎながら何故か盛り上がる3人。
和弥君はその様子を楽しそうに見守っている。
――ちょっと待て。
すぐに3人を引き剥がしたくなるけれど、流石にそれは大人気ないだろう。
3人は特に下心があるわけじゃないのだから。…ヒロちゃんは俺で遊んでいる気がするが。さっきもだったから。
…涼が困っているという理由はあるし、3人に押し潰されそうになっているし、やはり手を出すべきか。
「押し潰すつもり?」
俺よりも早く動いたのは意外に夕貴だった。
まず香苗を引き離し、それから真君とヒロちゃんの肩を叩く。
2人ははーい、と良い子の返事と共に存外素直に離れた。
「つまんないの」
剥れた香苗の頭を撫でてからこっそりデジカメを渡した。
「あまり兄さんを煽ってほしくないから。…可哀想だし」
夕貴が肩を竦めて言うけれど。
この場合俺が可哀想という意味なんだろうか。
けれど夕貴が見ているのは涼だから、涼が可哀想だと言いたいのかもしれない。
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「控え室って私たちが勝手に入っても良いの?」
控え室の前にまで来たところで、今更ながらに心配になったのか香苗が首を傾げた。
俺はさっきも入ったし気にならないんだが。
「あれー、とーのサン、何やってるの?」
のんびりとした声をかけられて、振り向けばそこに立っているのは真君。
入って入って、と声をかけられてありがたく従う。
促されたことで気が楽になったのか、香苗も嬉しそうに早く早くと袖を引いた。
「もう着替えても良いだろ?」
「もうちょっと待って」
中に入ると聞こえてきたのは涼とヒロちゃんの声だった。
カメラの音もするから写真でも撮ってるんだろうか。…後で見せてもらおう。
室内は着替えているのか、着替え終わったのかさっきよりも人数は大分少なかった。
涼とヒロちゃん、和弥君の姿は奥の方にあり周囲には人は居ない。
「あ、さっきの…千尋さん!」
香苗が手を振るとヒロちゃんがデジカメを下ろして振り向いた。
それなら俺の後ろにいないで駆け寄っていけば良いのに。
「…なんでそんな大勢で…」
着替える前にヒロちゃんに捕まったらしく、涼の格好は先ほどのままだ。
つまり女装のまま。
「涼さんおめでとうございます」
「りょーくん、おめでとー」
「……ありがと」
夕貴と真君が表情は違えど労うと、涼君が戸惑ったように視線を逸らした。
何て言おうかと迷いながら小声で礼を言っている。
照れているのか戸惑っているのか…両方だろうか。
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再び夕貴と香苗の傍に戻る。
既に表彰は始まっていて、司会者の傍には2人の人影。
誰が優勝するかということには興味が無かったけど、その内の1人が涼だったから。
「誰が優勝だって?」
「知らない人。涼さんは準だってさ」
肩を竦める夕貴の表情は完璧に呆れだ。
隣で香苗が凄い凄いと無邪気に喜んでいるので反応は対照的と言って良い。
「そっか」
「…それだけ?反応」
「周囲の評価はどうでも良いから。俺は涼の可愛い姿見れて満足だし、俺にとっては涼が一番だ」
ごちそうさま、と夕貴が深い溜息を吐いた。
「ね、司ちゃん司ちゃん」
「何だ?」
袖を引っ張られてそういえばと思う。
女の子に抱きつかれていた、という涼の言葉。
ヤキモチを妬かれるのは気分が良いけれど、不安にさせるのは本意ではないし。
「そういえば香苗、涼に逢うか?」
「あ、うんうん!すぐ行こう!」
「…別に紹介する必要ないと思うけど、涼さんだって紹介されても反応に困るだろうし」
相変わらず対照的な反応をする2人だったけど、香苗に余計なことを言うなという視線で睨まれた夕貴は口を噤んだ。
さっきも似たやり取りをしていたし、何を言っても仕方が無いと悟っているというのもあるだろう。
楽しそうに俺と夕貴の腕を引っ張る香苗には嫌悪感と言ったものは見当たらない。
悪感情で接せられないならそれが一番だが、何とも不思議だった。
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| タイトル |
107-2 会いたくない人 |
今日の気分 | 終 |
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「仲良いんだな」
「ええ、そりゃもう」
この様子のどこを見て仲がいいと判断するんだろう。
首をしめられかけていると言うのに。
ヒロはぱっと腕を離すと、それじゃと言って控室を出てってしまった。
一体何だったんだろう…写真を撮るのとからかう為だけに来たのだろうか。
いや、その前に写真!カメラ!…言ったところで消してはくれないのだろうけど。
コイツも。
一呼吸置いて、笑顔をつくってから遠野は口を開いた。
「似合ってるよ、涼」
「う、うるさい」
次の文句を言おうとする前に、遠野は俺の耳に顔を寄せて呟いた。
―可愛い―
こんなに人が居るのに。どうしてそんなことが出来るのだろう。
誰も他のことに忙しそうで、俺の方なんかみてないってわかっているけど。
顔が赤くなるのは止められない。
思った通りの反応に満足したように、彼は耳の側から離れた。
「ホント仲が良いよな」
「別に、ヒロは長い付き合いってだけだよ。遠野だってさっき…女の子に抱きつかれてたじゃん」
予想外の言葉だったのか、彼は目を丸くしている。
そして楽しそうに小さく声をたてて笑った。
何なんだよ。自分だけわかってて笑うなんてズルい。
「もしかして…涼、妬いてくれた?」
「なっ、妬く訳ないじゃん。そういう遠野こそ、ヒロに妬いたんじゃないの?」
「ああ、少し妬いたけどな」
「っ!開き直りってズルいと思うんだけど…」
結局彼には勝てないで終わってしまう。
どうして俺の周りには口のうまい奴が多いのだろう。
「裏ミスコンの方!集計が終わりましたので並んでくださいー!」
もう終わってしまったのか。
周りで休憩していた人もぞろぞろと立ち上がる。
俺も行かないといけないな…
「行きたくないけど」
「行かないとな。それとさっきの女の子、後で紹介するから」
続きが言葉にして漏れ、さらにその続きを遠野が続けた。
「…わかった」
そして、遠野に背を押され俺はもう一度ステージに立つこととなった。 |
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