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2008/03/01(土) 23:07:02
ハイジ
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「一体いつまで応援を待たせるつもりだ! 合流するまで突入を待てと言ったのはお前らだろ!」
少年の怒鳴り声は薄暗い非常階段によく反響した。右手に持った小型の通信機に怒鳴りつけながらも、階段を駆け上る足が乱れることはない。
『し、しかし、ホテルのシステムが何者かにクラッキングされています! あちこちに妨害の魔術も施されて、12階の非常階段で足留めを食らっている状態です。恐らく他の班も似たような状態かと……』
雑音混じりに返ってきた言葉は少年の怒りを余計に掻き立てた。
「てめえらそんな魔術も壊せねえのか! もういい! んなことより主査は何処だ!」
『それが……到着を待ち切れずにホテルから出ていかれまして……』
「ちっ……! これ以上応援なんか待ってられっか! 俺1人で突入する!」
そう言い捨て通信を切ると、少年は階段を上りきった。目前に見える屋上のドアを迷わず蹴破った。
正面から襲いかかってくる風に思わず目を閉じて、次に瞼をあげて見えたのは、今し方取り逃がした柳瀬葵の影。そして、その葵の手を、弧面の少女が取る瞬間だった。
いや、正しくは、差し出された少女の手を葵がとる瞬間だった。
葵は、選んだのだ。
自分たちではなく、あちらを。
あの優柔不断さからは考えられないような思い切った決断だが、この数時間で少しは成長したということだろうか。
だが、今の少年に、それを喜んでやる気は全くない。
「おい柳瀬葵!」
少年の怒鳴り声にも近い声に葵の肩がびくっと震えた。
振り返った顔にはまだ若干の不安の色が残っていた。しかし、瞳には今までなかった強い意思が確かに生まれている。
その生まれた光を、少年は馬鹿にするような気持ちで見返した。
所詮はぬくぬくと表の世界で生きていた人間だ。そんな人間の決断なんてたかが知れている。
少し脅せば簡単に崩れることを、少年は知っていた。
「餓鬼みてえにいちいち手を焼かせんじゃねえ。後悔したくないならとっととこっちに戻るんだな」
威圧感を纏った少年が葵の方へと一歩踏み出すと、気圧された葵は、僅かに後退した。しかしすぐにふるふるとかぶりをふった。 |
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2007/11/04(日) 19:06:06
ハイジ
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「…信じていいのか?」
「それはあたしが決めることじゃない」
少女が葵をみた。葵も見返した。
「本当のことがわかるのか?」
「…それは」
そこで言葉を切って、少女は弧面の顔を俯かせる。葵には、それが笑っているように見えた。だが、実際の弧面は相変わらずの無表情だ。
「…あたしに聞くことじゃない。……あのさ、いつまでそんな馬鹿みたいに意味のない質問してるつもり? そんな甘ちゃんのままじゃ、『こっち』で生きてけないよ」
す、と刀をもった腕を水平に持ち上げ、その切っ先をぴたりと葵に定めた。
「柳瀬葵、自分の真実を見つけたいんだろ。それならとっくに答えは出てるはずだ」
――――俺の答え。
「…逃げるな」
どくん、と心臓が脈打った。
不意に浮かぶのは、まだ離れない、瞼の裏に焼き付いた赤い炎。一瞬白くなる視界。そして浮かぶ赤い炎――――建物と人間が焦げる匂い――――なんだろう――――よく知っている、気が――――。
葵――――――
目の前で笑うように火は揺れる。そして囁く。戒めるように。呪うように。
忘れるな。
忘れるなよ、柳瀬葵。
「俺は、」
――知りたい。
――――知りたいことがある。
――――だから、
葵が、一歩前に、踏み出した。
「俺は――――」
少年が顔をあげる。
微塵も揺るがない強いまなざしに、さっきまでなかった小さな焔を見つけ、李苑は弧面の下で薄く笑った。
そして、問う。
「柳瀬葵――――答えは?」
サイレンの音が止んだ。 |
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2007/10/07(日) 12:31:19
ハイジ
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葵は答えない。
無駄な足掻きかもしれないが、ここで不用意に返事をするのは危険だと考えた。
じりじりと後退し逃げる隙を伺うが、そんな葵の警戒などまるで意に介さない様子で少女は斜に構えている。
しかし、彼女からは妙な威圧感を感じる。不気味な弧面のせいもあるだろうが、それだけではない。今まで感じたことのないようなものを、彼女の体から感じるのだ。
(この気迫の正体は、きっと………殺気、だ)
暑くもないのに、頬を汗が伝った。
今すぐ逃げろ。と、何かが言う。
そして、絶対に逃げるなとも。
すると突然、少女が背中に背負っている何かに手をかけた。ほどけた布が少女の足下に落ちる。
「――――!」
それは、葵が予想していた通り、剣だった。それも、この少女が今まで背負っていたとは思えない程に巨大な。
「……安心しろよ。あんたを斬りゃしないからさ」
警戒を強めた葵に気付いたのか、少女は笑いを含んだ声でそう言った。そして巨剣を片手で軽々と掲げる。
けばけばしいネオンの光を鋭く跳ね返す刀身は、恐怖を忘れるくらいに美しい。
そして、掲げたそれを、まるで何かを確かめるかのように見ている少女からは、神聖な儀式をしている巫女のような神々しさを感じた。
この人は誰だろう。名前を名乗らない。五十鈴や、そういえばあの恢って人も名乗ったのに。
…………名前。
―――――…そういえば、あの少年の名前は何なのだろう。
「柳瀬葵」
少女が、すっと剣を下ろした。刃先がコンクリートの地面に着き、からん、と音をたてる。
「選ばせてやる。……来るか来ないか、どちらかひとつだ」
声のトーンは何も変わっていないのに、その言葉は風にかき消されもせず、まっすぐに葵に届く。一際強い風が吹き抜けても、少女は微動だにしない。ただ、肩までの黒髪がなびくだけだ。
時間がない、という五十鈴の言葉を思い出す。
それじゃあ、あとどれくらいの時間が残されているのだろう。迷っている時間なんて本当はないんじゃないだろうか。
そこで葵は自分が迷っていることに気付いた。五十鈴や、この少女についていこうかどうか、迷っていることに。
どうしてかはわからない。だけど、迷っている。その証拠に葵の頭からは逃げるという選択肢がすっぽりと抜け落ちていたからだ。
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2007/10/05(金) 19:54:34
ハイジ
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重たいドアを開ければ、街のネオンにぼんやりと照らされた屋上が広がっている。人影は、なかった。
「…………誰もいねーのかよ…」
拍子抜けした葵は無意識に止めていた息を大きく吐き出した。緊張がふっと途切れた。
だが、誰もいないと分かったときにほっとしたと同時に、ガッカリしたのも本当だ。それが何故かは分からないし、何となく分かりたくない気もする。
もう一度息を吐き、風に煽られる髪を乱暴にかきあげながら屋上に足を踏み出した。
後ろ手にドアを閉じてから葵はそれに気付く。2メートルはある屋上のフェンスが壊れていたのだ。引き千切られたように壊されたフェンスの一部は屋上の真ん中に乱暴に放り出されていた。
そして、そのフェンスの残骸の先。
暗闇に紛れて気付かなかったが、屋上の縁に切り取られたような黒い影が伸びている。
その輪郭をはっきりと捉えて、息をのむ。
(……女子、高、生?)
紺のブレザーと白いソックス。その制服姿はどう見ても普通の女子高生と変わらない。
それが一般人ではないと分かるのは、狐面を付けていることと、背中に身長程ある巨大な何かを背負っているからだった。形から推測すれば、剣だろうか。
今は布で巻かれていて柄のような部分しか見えない。
葵が目を凝らして観察していると、少女がゆっくりと狐面の顔を向けた。思わず後ずさった葵を、確かめるかのようにじっと見つめている。
ほんの少し油断をして足を踏み外せば、高層ビルの屋上から落ちてしまうとは思えないほどの落ち着きようだ。この強風に無防備に体をさらしている。
「柳瀬、葵?」
突然の問い掛けは、風に書き消されそうな気怠げな声だった。
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2007/09/24(月) 20:00:29
ハイジ
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扉がするすると開く。通路の奥に、屋上へと続くドアが暗闇に浮かびあがっている。
「さ、屋上に出てください。ビルのシステムを全てクラッキングしてるわけではないので、そう長くは持ちません。急がなければまた捕まっちゃいますよ」
「…君、クラッカーなの?」
「いいえ、ハッカーです」
五十鈴は、さも心外だという顔をしてきっぱり答えた。
しかし葵は座り込んだままだ。五十鈴は眉をひそめる。
「……まだ何か?」
「俺が、あなたを信じると思いますか」
抵抗することも思考することも、そして人を疑うことにも疲れていたが、どうしても簡単に信じることができなくなっていた。
もしこのままここで何も考えずに、何もせずに、ぼーっとできたらどんなにいいだろう。
そんなことを考えながら、葵はそっと顔をあげた。
きっと五十鈴は呆れるか怒った顔をしているに違いない。
がしかし、驚いたこと彼女は険しい表情を崩してふふっと笑い声をあげた。
「…思いませんね。2時間前のあなたならともかく」
そう言って可愛らしく首を傾げ、肩を竦める。
「味方かどうか判断するのは確かに貴方の自由です。ただ、判断を下すのはまだ早いです。ごたごた言わずに屋上に出てください」
彼女の手が葵の手をとる。葵は促されて立ちあがったが、それでもまだ躊躇う。
そんな葵を見て五十鈴は溜め息を吐いて今度こそ呆れた。腰に手をあて目をつり上げる。
「優柔不断なお方ですね! 考える時間はたっぷりあったはずです。時間は限られています! お急ぎになってください」
「でも、」
「早く!!」
五十鈴がとうとう怒ったので、葵は思わず小さく頷いた。
それから、その声に押されるように葵はやっと駆け出した。
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2007/09/08(土) 19:39:13
ハイジ
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しかし、五十鈴と名乗った少女は、浮かべた微笑みをすぐに消した。髪と同じ色をした青い瞳は真剣な光を点し、正面からこちらを見据える。
「失礼とは承知の上で、車の中でのやり取りを聞かせてもらいました。…ひとつ言わせてもらいます。あの少年の話は全て本当ではありません」
そして少し眉尻を下げ、まるで認めたくないといったような表情で、
「……そして本当の話も、あるにはあります」
五十鈴のことを、完全に信じきれていない葵の表情を読み取ったのか、またすぐに付け加えた。
「ですが、あの話のほとんどは私たちを敵に仕立てるための嘘です! 貴方は私のことを信じれないのかもしれませんが、それはあの少年にも言えることです。突然現れて、誘拐まがいの行動をとった人の言うことを頭から信じこむんですか」
次第に感情的になっていく五十鈴の語調に、葵は思わずたじろいだ。しかし彼女の勢いは止まる様子をみせない。さっきまでの可憐な雰囲気はすっかりと失せ、マシンガンのように少年と、そして葵を罵っていた。
(つーか、誘拐まがいはどっちも同じだろ……)
返事も聞かず、ほとんど強引に連れ出したのはどちらも変わらない。しかしそんなことを今の彼女に言い返す勇気も無く、葵はじっと耐える。
何も反応を返さないでいると、五十鈴は一方的にまくしたてていることにやっと気付いた。ハッと肩を震わせ、ふいと顔を背けた。
「と、取り乱してすいません……、とにかく、あの連中のことは信じないほうが身のためです。人間を人間とも思っていない、最低な人たちですから」
五十鈴がそう締めくくると同時にエレベーターが最上階、屋上にたどり着いたことを知らせる電子音が響いた。
葵はほっと溜め息を吐いた。
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2007/08/17(金) 22:12:32
ハイジ
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体が枯れ葉のように数メートル吹き飛び、フロアに叩きつけられた。呻いてる間もなく、引き起こされる。
「こっちです!」
わけが分からず、とにかく唸る風と悲鳴と怒号の中を腕を引かれるままに走る。飛び込んだのはさっき乗り込みかけたものとは違うエレベーターだった。
ドアが閉まり、上昇を始める。
未だに状況を把握出来ないまま葵は壁に背中を預けてずるずると腰を下ろした。心臓がばくばくと激しく脈打つのが感じられる。
何とか立ち上がろうとしたが、強かに打った身体が思い出したようにずきずきと痛みだす。
「大丈夫ですか?」
呼吸ひとつ乱していない少女の問い掛けにも葵は黙って頷くことしか出来なかった。
フロアの階数を示す電光表示を眺めながら、少女はボタンにひたと手を当てた。薄い唇が小さく何かを呟くと、その手がほんのりと青く発光し始めた。
葵は息を飲んだ。この現象が何を表すのかぐらいはすぐに分かる。
――――魔術。
こんなに間近でみたのは初めてのことだった。
葵は好奇心と不安で胸を高鳴らせながら、じっと少女の手を見つめる。
エレベーターは静かだった。
しばらくはお互いの呼吸の音だけが響く。
「―――さて、と」
少女が不意にこちらに振り向いたので、葵は慌てて少女から視線を逸らした。
「こんばんは、柳瀬葵さん。遅ればせながら、お迎えに参りました」
少女の手がゆっくりと帽子をとる。ふわりと青い髪が散らばった。帽子の影になって見えていなかった白い肌が白々とした明りにさらされる。それから少し眩しそうに目を細めて、微笑んだ。
「私は春日五十鈴。……貴方の味方です」
上品な口調と美しい微笑みに、葵はこんなときだというのに思わず見惚れてしまった。
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2007/08/15(水) 20:08:20
ハイジ
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そうだ、誰かも分からないやつの話をこんな簡単に信用していいのか。もしこれが自分を誘き出す策略だとしたらどうする。
目の前を歩く少年に、こいつは敵だと告げるべきではないのか。
しかし葵は心の中で首をふってその考えを否定する。
彼等だって味方かどうかさえ怪しい。どちらが味方かはまだ分からないんだ。簡単に判断するな。もしかしたら、両方敵かもしれないじゃないか。
うだうだと決めかねているうちに一同はエレベーターの前に止まった。
「主査は、何階で待ってる?」
「38階です」
少年の問いに少女は澱みなく答えた。
一体少女はどうするつもりなのだろうと葵は気になったが、仮に少女が行動に出たところで、自分がどうするのかは何も決めれずにいた。
エレベーターが一階に止まった。到着を告げる電子音の後にドアが開いて、少年は中に入る。
――――その時。
少女の鈴のような不思議な声が葵の耳へと届いた。
『リ・リス・ティ』
突然、爆風のような激しい風が葵を襲った。 |
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2007/08/12(日) 10:07:01
ハイジ
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少年の後ろに付いてビルの玄関ホールに入る。葵のすぐ後ろを、車を運転していた人物がまるで監視するようにぴったりと付いて来るのが葵には気に食わない。
入ったビルは高級な内装のホテルだった。慣れない雰囲気に気圧されつつ、葵は注意深く辺りを伺う。ホテルの客も従業員も、一見は普通だ。それともそれは外見だけで中身は違うのかもしれない。
少年はフロントの方へと歩いて行く。葵もそれに従おうとしたとき、突然誰かが腕に触れた。
思わず小さく声をあげそうになったが、手を置いた人物が唇に人差し指をあてて静かに、というジェスチャーをしたので反射的にそれを堪える。足も止めそうになったが、触れていた腕が止まるなというようにぐいと引張られたので、そのままゆっくりと歩みを進めて少年の数メートル後ろで止まった。
腕に触れた人物、それはさっきまで後ろにいた運転手だった。深くかぶった帽子から僅かに覗く瞳を前にいる少年の背中に注意深く向けたまま、小さく言った。
「伯父さまと伯母さまに会わせてあげます」
「……え?」
葵は一瞬耳を疑った。
すぐに口を開いたが、もう一度静かに、というジェスチャーを繰り返されたのでそれにおとなしく従う。
どうやら女性のようだ。それにまだ若い。潜めた声は凛としていたが、まだ若干のあどけなさが残っていた。
戸惑う葵を安心させるように、少女は口元をほころばせた。
「…だからしばらくの間静かにして、私についてきて下さい」
葵の返事も待たずに少女は腕から手を離して、また葵の背後についた。少年がフロントから戻ってくる。
「こっちだ。ついて来い」
黙って頷きながらも、葵の鼓動は急速に速まっていた。
伯父さんも伯母さんも生きていた。生きていたんだ。
安堵感がじわりと体中に広がる。気を抜けばへなへなと座り込みそうだ。しかしすぐに葵の心にある考えがうかぶ。
――――罠かもしれない。
少年は自分の命を狙っている組織がいると言った。そして今後ろにいる少女が、少年の仲間だとはさっきの発言からは考え難い。そしてもし、少年と敵対しているとしたら。
15年前の事故で生き残ったという、子供たちを殺している組織の人物だとしたら。
『捕まったら殺されるぞ』
安堵感はざわざわとした不安に、瞬く間にかき消された。 |
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2007/08/03(金) 07:09:54
ハイジ
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「多分お前の伯父さんと伯母さんとやらはそいつらに殺されたんだ。お前が殺されなかったのは、あっちの目的がお前を殺すことじゃなくてお前を捕獲することだったからだろうな。そして俺らは、その魔の手から救ってやろうと今お前を保護してやってるわけ」
「それじゃあ樹に登ってた、あの変な奴は……」
「あいつはお前を殺そうとしてる組織の駒だ。捕まったら殺されるぞ」
「殺され……!」
少年は平然とした顔だが、葵は動揺を隠せない。
「それじゃあ俺を殺そうとするような危険な奴を、あんな女の子に足止めさせておいて大丈夫なのかよ!」
しっかりと確認したわけではないが、どう見ても自分より年下だったことは分かる。きっと中学生ぐらいだっただろう。そんな少女をあそこに置き去りにしていいものだろうかと葵は気を揉んでいるのだ。
だが、身を乗り出して問う葵を少年は嘲笑う。
「桜のこと言ってんなら大丈夫だ。あいつなら足止めぐらいできる。少なくともお前よりは役にたつしな……。おっと、残念だが昔話の時間は一旦お終いだ、柳瀬葵」
少年が言い終わると同時にゆっくりと車が停止した。
「さて、到着だ」
少年が振り向いた。葵は外を確かめることもなく、まっすぐに少年を見返した。
「……こんな話を聞いてすぐに、お前が俺の味方だなんて、簡単に信じられるかよ」
「……だな。少しは使える頭になった証拠だぜ」
そう言って唇を歪めると、少年はくいと外を指で示した。
「出ろ」
車が停まったのは巨大なビルの前だった。車から出た葵はそびえ立つそれを無言で見上げる。
「ここであの人が待ってる」
「あの人?」
「公安局特殊任務課の主査」
葵はぎょっとして思わず叫びそうになった。
「公安局? 公安局が絡んでるのか?」
少年はその問いには答えず、にやりと笑みを浮かべただけだ。
「時間がない。行くぜ」 |
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